十五の石の物語

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
65 / 449
4、菫青石(アイデンティティ)アイオライト

しおりを挟む
私達はついには森の外へ踏み出した。
ヴェールにとっては生まれて初めての外の世界だ。
あたりはちょうど良い具合に暗くなっていた。
ヴェールが酷く緊張していることは誰の目にも容易に見て取れた。
 強張った表情で、ヴェールは押し黙っている。



 森を出てしばらく進むとちょっとした商店や民家が点在し始めた。
さらに進むと、古く小さなホテルがあった。



 「今夜はあそこに泊まることにしよう。」

 私を先頭に三人は中に入る。
 人の善さそうな初老の男性が現れ、私達を部屋に案内してくれた。
 私とヴェールが同じ部屋、サリーはその向かいの部屋だ。
こじんまりした清潔な部屋だった。
 空腹を訴え、私は部屋に三人分の食事を依頼した。
 部屋の窓から見える夜空には月や星が明るく輝く。
そして、少ないが街灯も……
同じ夜でも森の中よりずっと明るい夜だった。



 「普通の人々はこんなにも明るい夜の中で暮らしているのですね。」

 「…そうだ。
そして、これからは君もこのような明るい夜を過ごすようになるのだ。」

 「……そう…ですね…」

 躊躇いがちにそう答えたヴェールはいつまでも窓の外を眺め続けていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...