十五の石の物語

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
64 / 449
4、菫青石(アイデンティティ)アイオライト

しおりを挟む
苛立ちながらもまるで起きようとはしない私にサリーも諦め、仕方なく同じように横になった。

 私は、外へ出る時間を少し遅れさせたかったのだ。
 今はまだきっと明るい。
ヴェールの目には明るい太陽は辛いだろうし、彼の奇異な姿は目立ってしまう。
だから、私は暗くなるまでの時間稼ぎのためにこんなことをしたのだが、ヴェールの前では言いにくく、そのためサリーの怒りを買ってしまう羽目になった。
しかし、サリーは本当に眠ってしまったようで、それは私にとって好都合なことだった。



 「やっとお目覚めか…」

サリーは、寝惚けているのか、驚いたような顔で私をみつめる。



 「サリーのせいで、すっかり暗くなってしまったぞ…」

 口ではそう言いながら、私は内心ではこの幸運を喜んでいた。



 「ごめん!久しぶりにたくさん歩いたから、疲れてたみたいだよ。
……ヴェール、ごめんよ!」

 「そんなこと…良いんですよ。」

 「では、そろそろ行こうか。」



 森の中程よりは明るいが、もう太陽はほとんど沈みかけている頃だろう。
この具合なら、森を抜ける頃にはあたりは暗くなっているはずだ。
 木の間隔がだんだんとまばらになり、やがて森の出口らしきものが見えた。
それに伴い、ヴェールが落ち着きを失い始めた。
 不自然な程、あたりをきょろきょろとしている。



 「ちょっと待って!」

サリーはそう声をかけると、バッグの中ををごそごそして、中から一枚のスカーフを取り出した。



 「ヴェール、ちょっとかがんでくれる?」

 「何を?」

 「いいから、いいから!」

サリーはヴェールの緑色の長い髪を束ね、スカーフで彼の頭を覆い隠した。



 「気を悪くしないでおくれよ。
 中には見かけだけで人を判断する馬鹿な奴らもいるだろうからさ……」

 「……ありがとう、サリーさん…」

 「じゃ…行こうよ!」

 私はサリーの心遣いに感謝した。 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...