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第10章…side ブルー

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ノワールはそう言って唇を噛み、込み上げる涙を流した。

私には理解出来ないことだが……ノワールが、本気であの女を愛しているのだということだけは、はっきりと感じられた。



「……そうか、だから、あの女はあれほどまでにやつれていたのだな。」

私の言葉にノワールは俯き、何も答えなかった。



「これから年をとっていけば、あの女はおまえの世話をするのが今よりさらに困難になるぞ。
あの女は、おまえのためにどんどん弱っていくのだ。
あの女は足が不自由なようではないか。
ただでさえ大変な生活だというのに、そんな身体の者に、その上まだおまえは苦労をかけるつもりなのか!」

「やめてくれ!!」

ノワールは、両手で耳を塞ぎ私から顔を背けた。



「ノワール、現実から目を背けるな!!
おまえのせいで、あの女がどれほどの負担を強いられているか、おまえにもわかっていないわけではなかろう?
それでも、おまえはあの女の側にいたいというのか?
なおも苦しめたいというのか?
それで、本当にあの女を愛していると言えるのか?!
……本当に愛しているのなら…あの女の幸せを案ずるのなら…この場から身を引くのが本当の愛ではないのか?」



ノワールは私の言葉に、顔を覆って泣き崩れた。
目の前にするノワールの姿がまるで幻覚のように思えた。
天界の者であるノワールがこんなにも感情を顕わにし、こんなにも女々しい姿を見せるとは…
私には、とても信じられない想いだった。 
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