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三年目の春

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(ねむ…春はなんでこう眠いんだろう?)



そんなことを思いながら、出かける準備をする。
ここは、会社の寮だから、会社にはすごく近い。
それだけは快適だ。



支社への転勤が決まった時は、本当に絶望した。
マイホームを買って半年後のことだった。
だからこそ、一家で移ることは出来ず、僕は一人で暮らすことを選択せざるを得なかった。



最初は寂しいのと不便さに音を上げた。
家事がこんなにも大変なことだとは思ってもみなかった。
無謀にも自炊をしようとした僕は、一週間でそれが不可能だと悟った。
以来、すっぱりと降参し、朝はパン、昼は社食、夜も外食か弁当にした。
幸い、近所には安い店がけっこうあるから助かっている。
部屋はもちろん散らかり放題だ。
でも、誰も来ないから、気にすることも無い。



半年くらいしてからは、寂しさも気にならなくなり、気ままな一人暮らしを楽しむ余裕も出て来た。
でも、年の暮れに家に帰り、正月を家族で過ごしてから、また一人暮らしに戻る時は、なんとも言えない寂しさに包まれた。
やはり、一人は寂しい。
しばらくすると諦めからそのことを忘れるだけなのだ。



(あ、いけない。
早く行かないと!)

もの想いに耽る間に、時が過ぎていた。僕は慌てて外に飛び出した。







「えっ!ほ、本当ですか?」

「あぁ、もちろんだ。
三年間、お疲れ様。」



支社長から、僕は最高に嬉しいニュースを受け取った。
来月、本社に戻れることになったんだ。
僕は嬉しくて、早速、妻にLINEを送った。



『へぇ、そうなんだ。
良かったね。』

もっと驚いてほしかったが、妻はLINEがあまり好きではないので、いつも素っ気ない返事しかくれない。



『さて、いろいろと忙しくなるぞ。』

『頑張ってね。』



本当なら、引っ越しの手伝いに来て欲しかったが、幼い子供達がいるからそれはきっと無理だろうと諦めた。



その晩から僕は引っ越しの準備に取り掛かった。
仕事の引き継ぎや引っ越し準備で、毎日とても忙しかったが、帰れるんだと思ったら、疲れもどこかへ吹き飛んだ。



『明日、帰るから。』

『そうなんだ、了解。』







「ただいま。」

「パパ、おかえり~」

娘達や妻が明るく出迎えてくれた。



「あぁ、家は良いなぁ。
ほっとするよ。」

整頓された部屋で風呂上がりに飲むビールは最高だった。



「あ、明日、荷物が来るから。」

「荷物?なんか買ったの?」

「そうじゃなくて。引っ越しの荷物だよ。」

「引っ越し??」

何か話が噛み合わないと思ったら、なんと、妻は、こっちに帰ると言ったのは、エイプリルフールの嘘だと思っていたらしい。



エイプリルフールのことなんて気にも留めてなかった僕は
逆にびっくりしたけれど。



そんなことも笑って流せるくらいに、僕は嬉しい気分だった。





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