341 / 364
三年目の春
1
しおりを挟む
(ねむ…春はなんでこう眠いんだろう?)
そんなことを思いながら、出かける準備をする。
ここは、会社の寮だから、会社にはすごく近い。
それだけは快適だ。
支社への転勤が決まった時は、本当に絶望した。
マイホームを買って半年後のことだった。
だからこそ、一家で移ることは出来ず、僕は一人で暮らすことを選択せざるを得なかった。
最初は寂しいのと不便さに音を上げた。
家事がこんなにも大変なことだとは思ってもみなかった。
無謀にも自炊をしようとした僕は、一週間でそれが不可能だと悟った。
以来、すっぱりと降参し、朝はパン、昼は社食、夜も外食か弁当にした。
幸い、近所には安い店がけっこうあるから助かっている。
部屋はもちろん散らかり放題だ。
でも、誰も来ないから、気にすることも無い。
半年くらいしてからは、寂しさも気にならなくなり、気ままな一人暮らしを楽しむ余裕も出て来た。
でも、年の暮れに家に帰り、正月を家族で過ごしてから、また一人暮らしに戻る時は、なんとも言えない寂しさに包まれた。
やはり、一人は寂しい。
しばらくすると諦めからそのことを忘れるだけなのだ。
(あ、いけない。
早く行かないと!)
もの想いに耽る間に、時が過ぎていた。僕は慌てて外に飛び出した。
*
「えっ!ほ、本当ですか?」
「あぁ、もちろんだ。
三年間、お疲れ様。」
支社長から、僕は最高に嬉しいニュースを受け取った。
来月、本社に戻れることになったんだ。
僕は嬉しくて、早速、妻にLINEを送った。
『へぇ、そうなんだ。
良かったね。』
もっと驚いてほしかったが、妻はLINEがあまり好きではないので、いつも素っ気ない返事しかくれない。
『さて、いろいろと忙しくなるぞ。』
『頑張ってね。』
本当なら、引っ越しの手伝いに来て欲しかったが、幼い子供達がいるからそれはきっと無理だろうと諦めた。
その晩から僕は引っ越しの準備に取り掛かった。
仕事の引き継ぎや引っ越し準備で、毎日とても忙しかったが、帰れるんだと思ったら、疲れもどこかへ吹き飛んだ。
『明日、帰るから。』
『そうなんだ、了解。』
*
「ただいま。」
「パパ、おかえり~」
娘達や妻が明るく出迎えてくれた。
「あぁ、家は良いなぁ。
ほっとするよ。」
整頓された部屋で風呂上がりに飲むビールは最高だった。
「あ、明日、荷物が来るから。」
「荷物?なんか買ったの?」
「そうじゃなくて。引っ越しの荷物だよ。」
「引っ越し??」
何か話が噛み合わないと思ったら、なんと、妻は、こっちに帰ると言ったのは、エイプリルフールの嘘だと思っていたらしい。
エイプリルフールのことなんて気にも留めてなかった僕は
逆にびっくりしたけれど。
そんなことも笑って流せるくらいに、僕は嬉しい気分だった。
そんなことを思いながら、出かける準備をする。
ここは、会社の寮だから、会社にはすごく近い。
それだけは快適だ。
支社への転勤が決まった時は、本当に絶望した。
マイホームを買って半年後のことだった。
だからこそ、一家で移ることは出来ず、僕は一人で暮らすことを選択せざるを得なかった。
最初は寂しいのと不便さに音を上げた。
家事がこんなにも大変なことだとは思ってもみなかった。
無謀にも自炊をしようとした僕は、一週間でそれが不可能だと悟った。
以来、すっぱりと降参し、朝はパン、昼は社食、夜も外食か弁当にした。
幸い、近所には安い店がけっこうあるから助かっている。
部屋はもちろん散らかり放題だ。
でも、誰も来ないから、気にすることも無い。
半年くらいしてからは、寂しさも気にならなくなり、気ままな一人暮らしを楽しむ余裕も出て来た。
でも、年の暮れに家に帰り、正月を家族で過ごしてから、また一人暮らしに戻る時は、なんとも言えない寂しさに包まれた。
やはり、一人は寂しい。
しばらくすると諦めからそのことを忘れるだけなのだ。
(あ、いけない。
早く行かないと!)
もの想いに耽る間に、時が過ぎていた。僕は慌てて外に飛び出した。
*
「えっ!ほ、本当ですか?」
「あぁ、もちろんだ。
三年間、お疲れ様。」
支社長から、僕は最高に嬉しいニュースを受け取った。
来月、本社に戻れることになったんだ。
僕は嬉しくて、早速、妻にLINEを送った。
『へぇ、そうなんだ。
良かったね。』
もっと驚いてほしかったが、妻はLINEがあまり好きではないので、いつも素っ気ない返事しかくれない。
『さて、いろいろと忙しくなるぞ。』
『頑張ってね。』
本当なら、引っ越しの手伝いに来て欲しかったが、幼い子供達がいるからそれはきっと無理だろうと諦めた。
その晩から僕は引っ越しの準備に取り掛かった。
仕事の引き継ぎや引っ越し準備で、毎日とても忙しかったが、帰れるんだと思ったら、疲れもどこかへ吹き飛んだ。
『明日、帰るから。』
『そうなんだ、了解。』
*
「ただいま。」
「パパ、おかえり~」
娘達や妻が明るく出迎えてくれた。
「あぁ、家は良いなぁ。
ほっとするよ。」
整頓された部屋で風呂上がりに飲むビールは最高だった。
「あ、明日、荷物が来るから。」
「荷物?なんか買ったの?」
「そうじゃなくて。引っ越しの荷物だよ。」
「引っ越し??」
何か話が噛み合わないと思ったら、なんと、妻は、こっちに帰ると言ったのは、エイプリルフールの嘘だと思っていたらしい。
エイプリルフールのことなんて気にも留めてなかった僕は
逆にびっくりしたけれど。
そんなことも笑って流せるくらいに、僕は嬉しい気分だった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
【意味怖】意味が解ると怖い話【いみこわ】
灰色猫
ホラー
意味が解ると怖い話の短編集です!
1話完結、解説付きになります☆
ちょっとしたスリル・3分間の頭の体操
気分のリラックスにいかがでしょうか。
皆様からの応援・コメント
皆様からのフォロー
皆様のおかげでモチベーションが保てております。
いつも本当にありがとうございます!
※小説家になろう様
※アルファポリス様
※カクヨム様
※ノベルアッププラス様
にて更新しておりますが、内容は変わりません。
【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】
も連載始めました。ゆるーくささっと読めて意外と面白い、ゆる怖作品です。
ニコ動、YouTubeで試験的に動画を作ってみました。見てやってもいいよ、と言う方は
「灰色猫 意味怖」
を動画サイト内でご検索頂ければ出てきます。
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
おぴちょん様
ひでとし
大衆娯楽
時は昭和後期から平成の前半、舞台は北関東の架空の町「岩原」と東京都内。
岩原の土建屋のボンボンでお人好しの西田は呪われた運命に弄ばれ、ヤクザの組長の娘と結婚して死別し、苦渋の20代を過ごして人が変わってしまった。
西田は組を受け継ぐと悪辣な事業を行い、淫乱な娼婦と三度目の結婚をし、脱税のために新宗教を興して教祖に納まる。
西田は名家の美少年に魅入られて犯し、ゲイセックスにもはまり込むが、その美少年の不思議な治癒能力を利用して自らの新宗教で莫大な金を稼ぐ。
その金で東京都内に幾つもの風俗店をオープンさせ、妻と手下の暴力団員に経営させ、美女、ゲイ、ニューハーフとのセックスに溺れて、幾多の殺人にも手を染める。
やがて西田は妾の一人に殺害されるが、巨額の集金マシーンと化した教団とセックスまみれの悪縁は、残された者たちに引き継がれ、果てしない悲劇と殺人を巻き起こしていく。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
お題小説
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
ある時、瀕死の状態で助けられた青年は、自分にまつわる記憶の一切を失っていた…
やがて、青年は自分を助けてくれたどこか理由ありの女性と旅に出る事に…
行く先々で出会う様々な人々や奇妙な出来事… 波瀾に満ちた長編ファンタジーです。
※表紙画は水無月秋穂様に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる