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恋心

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(なんとかならんのか?)



俺は、パソコンの画面を見ながら、頭を抱えた。
そこに映るのは、Miku。
俺がスカウトして来たアイドルだ。
初めて彼女を見た時、これはイケると思った。
心臓が口から飛び出しそうな程の強烈なインパクトを受けた。
この子なら、超人気者のアイドルになれる。
俺は自分のカンに自信を持っていた。



俺は全力で彼女をプロデュースした。
なのに、どうしたことか、Mikuはなかなか売れなかった。
彼女のルックスから、清純派路線で売り出したのだが、全くの鳴かず飛ばず。
CDや写真集も在庫の山だし、ドラマのオーディションにもまるきり受からない。
気が付けば、彼女が事務所に入ってから三年の時が流れており、年内に売れる兆しが見えなければクビだと言い渡されてしまったのだ。
信じられない。
今でも、彼女と初めて会った時のことは忘れられない。
大勢の中にいても、彼女だけが輝いて見えた。
彼女は金のたまごだ。
まだ、みんなそのことに気付いてないだけ。



「橋本さん、何よ。難しい顔して…」

「あ、Miku…」

Mikuは仕事がなく、最近は事務所で電話番や事務の仕事をしているというのに、少しも焦ってない。



「わかってるよ。私が売れないからだよね。
ね、この際、アイドルは諦めて、私と結婚しない?」

「馬鹿なことを言うなよ。
おまえには才能がある。
みんながまだそのことに気付いてないだけだ。」

平静を装ってそう言ったけど、実は内心は動揺していた。
なぜなら、俺はMikuに惚れている。
業界人としてはあるまじきことだが、彼女とはすでに深い仲だ。



「私、アイドルなんて柄じゃないんだよね。」

「何言ってんだ。おまえはアイドルになるべくして生まれた人間だよ。」

「話が大袈裟。」

Mikuは苦笑した。



そんなある日、ホームページの閲覧数やメールが急激に増えた。
なぜだ?と探っているうちに、それはSNS発信のフェイクニュースのせいだとわかった。ハリウッドの人気スター、マイケル・ディールの隠し子が日本で売れないアイドルをしていて、それがMikuだという。



「誰がこんなデタラメを。」

「……デタラメじゃないよ。」

「え?」

聞いてみれば、Mikuは本当にマイケルの子で、以前紹介された父親は血の繋がりはない者だということだった。



「な、なんで、そんな大切なこと隠してたんだよ!」

「隠してないよ。聞かれなかったから言わなかっただけ。」

それからMikuの名前は瞬く間に世間に広まり…
昔作ったグッズ等は値上げをしても完売してしまった。



Mikuは売れっ子の女優になった。
彼女には父親譲りの演技力があったのだ。
清純派キャラなんてさせていた俺の作戦ミスだった。
彼女は自然でざっくばらんな性格を表に出し、男性だけではなく、女性からの支持も増えている。
三日前には、俺と結婚すると、テレビで宣言してしまった。
けれど、そのことに対しても悪い反応はほとんどない。
ほっとすると同時に、俺はふと思った。
初めて会った時、あんなに強烈なインパクトを受けたのは、もしかしたら、恋心だったのか?と。








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