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ひな祭り

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(あ……そうだったんだ……)



仕事帰りのスーパー…
疲れてるから、わざわざ夕飯を作る気にはなれない。
直行したのは、お弁当のコーナー。
その片隅にあったのは、半額のシールが貼られたひなチラシ。
それを見て、私は今日がひな祭りだったことを思い出した。



ふと、子供の頃のおひな祭りを思い出した。
一番印象深いのは、小学生の頃のこと。
あの頃はうちも裕福だったから、豪華な七段のお雛様を飾り、私とお母さんは着物を着て、テーブルの上には食べきれない程の御馳走が並んで…
皆が笑顔だった。



でも、中学になった頃には全く違ってた。
父は親友に騙されて多額の借金を背負い込み、住み慣れた家を手放し、狭いアパートに移った。
もちろん、雛人形なんて飾る場所もなかった。
着物も着ない。
そもそも、ひな祭りを祝うことさえなくなった。
生きていくのに必死で、そんな行事をするゆとりなんてなくなっていた。



借金は、父の命と引き替えに返済出来た。
父の死後、母は心を病み、別人のようになってしまった。
いつも暗い顔をして、泣いたり怒ったり…
私はそんな母と顔を合わせるのがいやで、仕事を掛け持ちし、遅くまでがむしゃらに働いた。
その甲斐あって、私もようやく人並みの暮らしが出来るようになった。



「ただいま、お母さん。
今日は、ひな祭りだから、生菓子買ってきたよ。」

私は仏壇に梅の花を型どった生菓子を供えた。
仏壇には両親の写真が飾ってあるのに、なぜだかお母さんにばかり話しかけてしまう。



服を着替え、テーブルの上に買ってきたひなチラシを置いた。
何年ぶりかな、ひなチラシなんて食べるのは。



お雛様もない、着物も着ない、ただひなチラシがあるだけだけど、久しぶりのひな祭りだ。



スーパーのひなチラシを頬張っていると、なぜだか涙が零れて落ちた。

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