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持病
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「あら~…ナベさん、お久しぶりじゃないの。
ナベさんがなかなか来て下さらなかったから、私どんなに寂しかったことか…」
心にもない言葉を口にして、私は男にしなだれかかった。
こんな商売が好きなわけはない。
お酒だって、本当はそんなに好きじゃない。
それじゃあ、なぜこんな職業に就いているかといえば、それは私の持病のせいだ。
私は子供の頃から血圧が低かった。
だから、朝にはめっぽう弱い。
毎朝母親に叱られながらぐずぐず起きては、不機嫌な顔で登校した。
中学も高校もしょっちゅう遅刻していた。
低血圧は、まるで病気ではないというような扱いで、朝起きられないのはただの怠け癖のように言われて嫌な想いをしたものだ。
大人になっても、私の低血圧は治らなかった。
最初は事務職に就いたけど、朝がどうしても起きられず、無理に起きても頭が全然回らなくて、自分でも駄目だと思った。
だから、悩んだ末に夜の仕事を選んだ。
両親はもちろん猛反対。
けれど、私の意志は固かった。
私は家を出て、水商売の世界に飛び込んだ。
いろいろと大変なこともたくさんあったけど、朝早くに起きなくて良いということで、私は今までずっと抱えて来たストレスからようやく解放された。
だから、仕事で少々辛いことがあっても、耐えられた。
私に、この持病がある限り、私はこの職業をやめることは出来ないと思うし、この持病が完治することはすでに諦めていた。
この世界に入って7年が経った頃、私は秀人と出会った。
店にお客としてやって来た彼とは、初めて会った時から妙に気が合った。
私は彼と付き合うようになり、一年が経とうとした頃、彼は私に指輪をくれた。
彼のご両親は、私が水商売をしていることを知りながら、結婚を反対されることはなく、結婚話はとんとん拍子に進んでいった。
そして、桜の花が咲く頃、私は秀人と結婚した。
彼は、私に専業主婦になってほしいと願い、私ももちろん水商売を続けるつもりはなかったから、素直に応じた。
ただ、朝、彼に食事の支度をしたり見送るために早起きをしなくてはいけないことだけが辛かったけれど、送り出してしまえばまた寝ることだって出来るんだから…そう言い聞かせ、頑張っていたのだけれど…
(あ…!!)
ある日、目が覚めたらアラームをかけた時間を過ぎていた。
彼はもう隣にはいない。
焦って起きようとしていた時、彼が部屋に戻って来た。
「美香、無理しなくて良いから…」
「え?」
「長い間、一人で暮らして来たんだ。
朝ごはんくらい、自分で用意出来るから。
明日からは起きなくて良いからね。」
彼は、私が朝に弱いことを知っている。
だから、最初から朝は起きなくて良いとは言われていたのだけれど、新婚だからさすがに気が引けて無理をしていた。
でも、彼は気付いていたんだ。
私が無理してることを。
「秀人……」
「さ、ゆっくり寝てよ。
じゃあ、行って来るね。」
「い、行ってらっしゃい。」
優しい彼のおかげで、私はまたゆっくりと起きられるようになった。
この分では、やっぱり私の持病は完治しそうにない。
ナベさんがなかなか来て下さらなかったから、私どんなに寂しかったことか…」
心にもない言葉を口にして、私は男にしなだれかかった。
こんな商売が好きなわけはない。
お酒だって、本当はそんなに好きじゃない。
それじゃあ、なぜこんな職業に就いているかといえば、それは私の持病のせいだ。
私は子供の頃から血圧が低かった。
だから、朝にはめっぽう弱い。
毎朝母親に叱られながらぐずぐず起きては、不機嫌な顔で登校した。
中学も高校もしょっちゅう遅刻していた。
低血圧は、まるで病気ではないというような扱いで、朝起きられないのはただの怠け癖のように言われて嫌な想いをしたものだ。
大人になっても、私の低血圧は治らなかった。
最初は事務職に就いたけど、朝がどうしても起きられず、無理に起きても頭が全然回らなくて、自分でも駄目だと思った。
だから、悩んだ末に夜の仕事を選んだ。
両親はもちろん猛反対。
けれど、私の意志は固かった。
私は家を出て、水商売の世界に飛び込んだ。
いろいろと大変なこともたくさんあったけど、朝早くに起きなくて良いということで、私は今までずっと抱えて来たストレスからようやく解放された。
だから、仕事で少々辛いことがあっても、耐えられた。
私に、この持病がある限り、私はこの職業をやめることは出来ないと思うし、この持病が完治することはすでに諦めていた。
この世界に入って7年が経った頃、私は秀人と出会った。
店にお客としてやって来た彼とは、初めて会った時から妙に気が合った。
私は彼と付き合うようになり、一年が経とうとした頃、彼は私に指輪をくれた。
彼のご両親は、私が水商売をしていることを知りながら、結婚を反対されることはなく、結婚話はとんとん拍子に進んでいった。
そして、桜の花が咲く頃、私は秀人と結婚した。
彼は、私に専業主婦になってほしいと願い、私ももちろん水商売を続けるつもりはなかったから、素直に応じた。
ただ、朝、彼に食事の支度をしたり見送るために早起きをしなくてはいけないことだけが辛かったけれど、送り出してしまえばまた寝ることだって出来るんだから…そう言い聞かせ、頑張っていたのだけれど…
(あ…!!)
ある日、目が覚めたらアラームをかけた時間を過ぎていた。
彼はもう隣にはいない。
焦って起きようとしていた時、彼が部屋に戻って来た。
「美香、無理しなくて良いから…」
「え?」
「長い間、一人で暮らして来たんだ。
朝ごはんくらい、自分で用意出来るから。
明日からは起きなくて良いからね。」
彼は、私が朝に弱いことを知っている。
だから、最初から朝は起きなくて良いとは言われていたのだけれど、新婚だからさすがに気が引けて無理をしていた。
でも、彼は気付いていたんだ。
私が無理してることを。
「秀人……」
「さ、ゆっくり寝てよ。
じゃあ、行って来るね。」
「い、行ってらっしゃい。」
優しい彼のおかげで、私はまたゆっくりと起きられるようになった。
この分では、やっぱり私の持病は完治しそうにない。
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