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「私が行きます!」

「いえ、私に行かせて下さい!」

「いえ、行くのは私です!」



誰も嫌がるどころか、自分が行くと言い出す始末。
確かに、根性のあるしっかりした子ばかりだけど、まさかここまでだとは思っていなかった。



うちは、お客様をご主人様、従業員を使用人に見立てた所謂メイドカフェだ。
だが、普通のメイドカフェとは違う。
うちはスポ根メイドカフェだ。
だから、服装も、体操服に提灯ブルマーだ。
バイトの条件も、学生時代に運動系の部活をやっていて根性のある者となっている。
ただ上辺だけではない、本物のスポ根を目指しているからだ。
だから、台風上陸中の今日も、店は営業している。
お客は多分来ないだろうが、たかが台風くらいで休んでしまっては、うちのコンセプトには合わないから休まない。
メイドたちも、誰一人として休まなかった。



やがて、夕方になった。
やはり思った通り、今日のお客は皆無だった。
台風は相変わらず猛威を奮っている。
今日は、閉店時間まで誰も来ないはずだ。



そんな時、店の電話が鳴った。
電話の相手は、常連の牧さんだった。



「いえ、もちろん喜んで出前させていただきます!」



牧さんから、オムライスとハムサラダの注文が入った。
まさか、こんな日に出前を頼まれるとは思ってなかったが、根性がウリなんだから、断る訳にはいかない。
今日は、俺が行くしかないか、そう思っていたのだが、全員が出前に行くと名乗り出たのだ。



「お、おまえたち…」

メイドたちの瞳はキラキラと輝いている。



「おまえたちの気持ちはよくわかった。
じゃあ、全員で行って来い!
良いか、くれぐれも気を付けて行くんだぞ!」

「はいっ!」

メイドたちの声が揃った。







「た、ただいま、戻りました!」

普通なら、往復で30分もかからないはずの牧さんの家から彼女達が戻ってきたのは、2時間近く経ってからだった。
しかも、皆の着ていた雨合羽は破れ、岡持ちは壊れ、皆があちこちから血を流していた。



「だ、大丈夫なのか!?」

「はい。このくらいの怪我、なんともありません。」

皆は血を流しながら誇らしげな顔で微笑む。



「本当に、なんて奴らだ…」

「店長!ギターを弾いて下さい。
皆の無事を祝って、歌いましょうよ!」

「よし、わかった!」

俺たちは歌った。声高らかに。
台風にも負けなかったみんなを称え、肩を組み、体を揺らしながら歌を歌った。
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