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タクシーに乗って
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(暑いなぁ…)
ギラギラと照りつける太陽か恨めしい。
この長い一本道には、日陰が全くない。
夏休みという名の盆休み。
僕は、一人で気ままな旅に出ていた。
行き先は、本屋に行って無造作に開いた地図で決めた。
特に行きたい所はなかったから。
そこがどんな所かも知らないし、宿の予約さえしていない。
こんな気候だから、野宿しても構わない。
僕がこれ程いいかげんな旅に出たのには、実は訳があった。
それは失恋だ。
結婚まで考えていた彼女に、酷い振られ方をしてしまったんだ。
いや、彼女だと思ってたのは僕だけだったのかもしれない。
彼女にとっては、僕なんて、最初からただの遊びだったのだろう。
そんなわけで、正直言うとこの旅は完全な傷心旅行だ。
心の奥底では、このまま死んでしまいたい、だなんて、そんなことまで考えていた。
(わっ!)
後ろからのクラクションに、僕は驚いて振り向いた。
そこにはタクシーがいて、日に焼けた中年のドライバーがにこやかに片手をあげた。
「……なにか?」
僕が声をかけると、ドライバーは窓を開けた。
「良かったら乗られませんか?」
「え?」
「今日はまだお客さんがなくて…」
タクシーに押し売りされるとは思わなかった。
だけど、この暑さだ。
あてもなく炎天下の中を歩くより、涼しいタクシーに乗った方が良いかもしれない。
「じゃあ、お願いします。」
「どうもありがとうございます。」
タクシーの中はとても涼しくて気持ちが良い。
僕を乗せると、タクシーは滑るように走り始めた。
行き先も告げてないのに。
勝手に観光でもさせて金をふんだくるつもりだろうか?
それならそれで構わない。
僕は、話すのが煩わしいから目を瞑り、そのまま、いつの間にか眠り込んでいた。
「お客さん、着きましたよ。」
「え?」
起こされたその場所は、観光地ではなくただのこじんまりした民家だった。
「帰ったぞ~」
「おかえりなさい。」
雰囲気的に、ここはドライバーの家で出てきたのはおそらくその妻だろうと思えた。
「さ、上がって下さい。」
「え?」
訳がわからないままに、僕は居間らしき部屋に通された。
そこには、ドライバーの両親と思しき老齢の男女と猫がいた。
「あ、あの…」
「よう来んさったな。」
お爺さんが僕の手を握る。
混乱する僕をよそに、お茶とお菓子が出て、そのうちお風呂をすすめられ、晩御飯をいただいて、酒を飲み…
なぜだかわからないけれど、この家族は僕を歓迎し、大切にもてなしてくれた。
僕は狐につままれたような気分を感じながらも、皆のもてなしにどこか温かなものを感じていた。
もちろん、その晩は家に泊めてもらった。
次の日の朝、お爺さんが言った。
「生きてりゃ必ず良いことがあるからな。
辛くなったら、いつでもここにおいで。」
みんながにこにこしながら、頷いて…
僕はようやく理解した。
普通にしてるつもりだったけど、きっと僕は様子がおかしかったんだ。
それをドライバーさんが心配して…
ありがたいと思った。
「じゃあ、気を付けて。」
「本当にどうもありがとうございました。」
帰りはあの一本道まで送ってもらった。
(あ!)
僕は、世話になったばかりではなく、タクシー代も全く払っていなかったことに気付いた。
次の年…
お礼の品を持って、あのドライバーさんの家に行こうと思ったのだけど、どうしてもあの家がみつからなかった。
帰りは起きていたから、道は覚えてるはずなのに、どうしてもみつからなくて…
それからも何度か探しに行ったけれど、とうとうあの家はみつからなかった。
ギラギラと照りつける太陽か恨めしい。
この長い一本道には、日陰が全くない。
夏休みという名の盆休み。
僕は、一人で気ままな旅に出ていた。
行き先は、本屋に行って無造作に開いた地図で決めた。
特に行きたい所はなかったから。
そこがどんな所かも知らないし、宿の予約さえしていない。
こんな気候だから、野宿しても構わない。
僕がこれ程いいかげんな旅に出たのには、実は訳があった。
それは失恋だ。
結婚まで考えていた彼女に、酷い振られ方をしてしまったんだ。
いや、彼女だと思ってたのは僕だけだったのかもしれない。
彼女にとっては、僕なんて、最初からただの遊びだったのだろう。
そんなわけで、正直言うとこの旅は完全な傷心旅行だ。
心の奥底では、このまま死んでしまいたい、だなんて、そんなことまで考えていた。
(わっ!)
後ろからのクラクションに、僕は驚いて振り向いた。
そこにはタクシーがいて、日に焼けた中年のドライバーがにこやかに片手をあげた。
「……なにか?」
僕が声をかけると、ドライバーは窓を開けた。
「良かったら乗られませんか?」
「え?」
「今日はまだお客さんがなくて…」
タクシーに押し売りされるとは思わなかった。
だけど、この暑さだ。
あてもなく炎天下の中を歩くより、涼しいタクシーに乗った方が良いかもしれない。
「じゃあ、お願いします。」
「どうもありがとうございます。」
タクシーの中はとても涼しくて気持ちが良い。
僕を乗せると、タクシーは滑るように走り始めた。
行き先も告げてないのに。
勝手に観光でもさせて金をふんだくるつもりだろうか?
それならそれで構わない。
僕は、話すのが煩わしいから目を瞑り、そのまま、いつの間にか眠り込んでいた。
「お客さん、着きましたよ。」
「え?」
起こされたその場所は、観光地ではなくただのこじんまりした民家だった。
「帰ったぞ~」
「おかえりなさい。」
雰囲気的に、ここはドライバーの家で出てきたのはおそらくその妻だろうと思えた。
「さ、上がって下さい。」
「え?」
訳がわからないままに、僕は居間らしき部屋に通された。
そこには、ドライバーの両親と思しき老齢の男女と猫がいた。
「あ、あの…」
「よう来んさったな。」
お爺さんが僕の手を握る。
混乱する僕をよそに、お茶とお菓子が出て、そのうちお風呂をすすめられ、晩御飯をいただいて、酒を飲み…
なぜだかわからないけれど、この家族は僕を歓迎し、大切にもてなしてくれた。
僕は狐につままれたような気分を感じながらも、皆のもてなしにどこか温かなものを感じていた。
もちろん、その晩は家に泊めてもらった。
次の日の朝、お爺さんが言った。
「生きてりゃ必ず良いことがあるからな。
辛くなったら、いつでもここにおいで。」
みんながにこにこしながら、頷いて…
僕はようやく理解した。
普通にしてるつもりだったけど、きっと僕は様子がおかしかったんだ。
それをドライバーさんが心配して…
ありがたいと思った。
「じゃあ、気を付けて。」
「本当にどうもありがとうございました。」
帰りはあの一本道まで送ってもらった。
(あ!)
僕は、世話になったばかりではなく、タクシー代も全く払っていなかったことに気付いた。
次の年…
お礼の品を持って、あのドライバーさんの家に行こうと思ったのだけど、どうしてもあの家がみつからなかった。
帰りは起きていたから、道は覚えてるはずなのに、どうしてもみつからなくて…
それからも何度か探しに行ったけれど、とうとうあの家はみつからなかった。
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