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初恋

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「神父様~!」

私がこの村に赴任して半年程が経った頃のことだった。
村人から、行き倒れの者の葬儀をして欲しいとの依頼があった。




「どこの誰ともわからない者ですが、何もしないわけにもいきません。
どうか、よろしくお願いします。」

「わかりました。
その方を教会に運んで来て下さい。」

それからしばらくして、その者は運ばれて来た。
粗末な棺に入れられて…



私は準備していた花を入れるため、棺の扉を開けた。



棺に横たわっていたのは、まだ若い女性だった。
痩せてやつれてはいたが、とても美しいと思った。
いや、そんな軽いものではない。
私は、今までに感じたことのないような強い気持ちを感じていた。



(なんだ、この気持ちは…
何故こんなにも胸が熱いんだ!?)



私は自分の気持ちが理解出来ず、激しく動揺した。
花を棺に入れることさえ忘れ、彼女に見蕩れた。



「……神父様、どうかなさいましたか?」

「え?
い、いえ、なんでもありません。」

村人の手前、私はどうにか平静を装った。



そして、皆と一緒に墓地に行き、私は滞りなく彼女の葬儀を行った。
やがて、彼女は村人たちの手により埋葬された。







(きっと、同情したからだ。)



その晩、私はなかなか寝付くことが出来なかった。
あの女性のことがどうしても頭から離れなかったのだ。



彼女にどんな事情があったのかはわからない。
だが、まだ若い彼女が、こんな田舎の村で一人寂しく亡くなってしまうのは、あまりに不憫だ。
だから、私は彼女に同情し、気にかかってしまうのだ。



しかし、時が流れても、私の心の中から彼女が消えることはなかった。
彼女のことを考えるだけで、胸は弾み、全身が火のように燃え滾った。
一日中、彼女のことが頭から離れない。
彼女はどんな瞳をしていたのだろう?
名前は?
どこの出身なんだろう?



彼女のことを考えると、夜になっても眠れず、食べることも忘れてしまった。
私の体はどんどん衰弱し、気が付けば、日々の暮らしにも支障を来すようになっていた。


私はきっとこのまま死んでしまうのだ。
だが、死ねば、彼女に会える。
そう思うと、死すら、喜びに思えた。



そんなある日のこと…
一人の女性が教会を訪ねた。



「き、君は…!」

私の心臓は早鐘を打ち出した。
私は幻覚を見ているのか?
私の目の前には彼女がいたのだから。
死んだはずの彼女が…



「神父様、もしや妹をご存知なんですか!?」

「妹?」

その者は家出をした双子の妹を探していると言った。
それが、あの行き倒れの女性だということはその顔を見れば一目瞭然だ。
婚約者に裏切られた妹は衝動的に家を出た。
それを心配した彼女が、妹を探しながらこの村に来たのだと言う。



「妹さんはこちらに…」

「あぁ、なんてこと…リディア!」

妹は、彼女の墓に取りすがって涙を流した。



それは、なんとも不思議な光景だった。
私が恋い焦がれた彼女が…すでに死んでしまった彼女が目の前にいて、泣いているのだから…
私はその場に立ち尽くし、目の前の信じられない光景を、ただ、じっと眺めていた。



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