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雨と紫陽花

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「全く、よく降るなぁ…」

「梅雨だからね。」

俺たちは、窓の外を眺めながら、苦い珈琲を静かにすすった。



俺たちはどちらも珈琲が大好きで、この喫茶店で知り合った。
ここは町外れの珈琲専門店。
確か、あれは取引先との会合の帰りだったか、たまたまこの店の前を通りがかった時、珈琲の芳醇な香りが鼻をかすめ、俺はつい、足を止めてしまったんだ。
それから、ここの珈琲が気に入って、何度か通ううちに常連だった彼女と知り合った。



「紫陽花って雨に似合うよね。」

千賀子は、雨に打たれる紫陽花を見ながら、ぽつりと呟いた。
確かに紫陽花は、雨に打たれることを喜んでいるかのように見える。
雨に濡れながら、とても生き生きとしているのだ。



「紫陽花はたくさんの水を欲する植物らしいぜ。」

「そっか。
だから、雨と相性が良いんだね。」

「英語名は、水の器って意味だからな。」

「へぇ、そうなんだ。
ねぇ、私たちはどっちがどっちだと思う?」

「何が?」

俺は、千賀子の質問の意味がわからず、問いかけた。



「きっと、私が紫陽花だね。
仁志は雨。」

「あぁ……」

千賀子の質問の意味を理解して、俺は頷く。



「でも、なんで俺が雨なんだ?」

「だって、さっき言ったじゃない。
紫陽花はたくさんの水を欲するって。
私の方が、仁志に惚れてるから、だから、私が紫陽花なんだよ。」

「……よく言うよ。」

俺は、失笑した。
千賀子のやつ、まるでわかっちゃいない。
俺の方が千賀子に強く惹かれてるのに。
俺たちは、お互いに感情表現が下手で、あまりイチャイチャすることはない。
だから、傍目には冷めたようにみられていると思うけど、正直言って、俺は千賀子にべた惚れだ。
だけど、そんな気持ちは千賀子には伝わっていないようだった。



「……雨、やんできたね。」

「なぁ、千賀子……」

「何?」

「帰りに虹が出てたら…結婚しないか?」

「えっ!?」

千賀子は目を丸くした。
確かに、俺もまさか今日こんなことを言うとは思ってもみなかった。
彼女と知り合ってまだ半年足らずだけど、でも、俺の気持ちはすでに決まっていた。
それが少し早まっただけのことだ。



「そんなに驚くことか?
俺が雨でおまえが紫陽花なんだろう?
だったら、いつも一緒にいるのが自然なんじゃないか?」

俺がそう言うと、千賀子は穏やかに微笑んだ。



「そうだよね。
でも、だったら、たとえ、虹が出てなくても結婚した方が良いんじゃないかな?」

「……確かにそうだな。」



しばらくして、俺たちは店を出た。
雨上がりの東の空には、大きな虹がかかっていた。
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