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新番組

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「よし!新番組はそれで決まりだ!」

 村井プロデューサーは、テーブルを叩き、声高らかに宣言した。



 突然、東京湾に現れた宇宙からの大船団のため、首都は都市閉鎖を発令し、人々は息を潜め、家の中に閉じこもった。
もう一週間経つが、不気味なことに、大船団には何の動きもない。
 政府からの呼び掛けにも、まるで反応はなかった。



そんな中、某ローカルテレビ局はとんでもない新番組を企画した。
それは、突然、民家に行って、晩御飯を食べさせてもらうというものだ。
 大昔に同じ内容のものがあったが、平和なその頃とこの非常事態では、かなり違う反応が撮れると思われたからだ。



 出演者は、売れないコメディアン、どん太郎に決まった。
その者以外に、その仕事を引き受ける者がいなかったからだ。



 予想通り、扉を開けてくれる市民はほとんどいなかった。



 「これじゃあ、番組にならない!なんとかして中に入るんだ!」

 「えー…」



 芸人生活15年。
どん太郎は今までテレビには二回しか出たことがない。
しかも、ただ大勢の芸人達の中にいて映っただけのこと。
そんな自分が冠番組を持てたのだ。
このチャンスを逃したら最後、一生、売れることは出来ないだろうことは、どん太郎にもわかっていた。



 (そうだ!やるしかない!)



どん太郎の心に熱い炎が燃え盛った。



ある時は、急病人のふりをして…またある時は、家人を脅し…
そして、またある時は鍵のかかっていない窓から勝手に侵入した。



そんなどん太郎には、非難のコメントが殺到した。
 晩御飯を出してもらえることは全くなく、気の立った市民から殴られたり、蹴り飛ばされることもしょっちゅうだった。
だが、皮肉なことに番組の視聴率は鰻登りとなった。
 酷い目にあうどん太郎の姿が、都市閉鎖でストレスの溜まった市民達のストレス発散となったのだ。



 三ヶ月が経ったある日、大船団はいきなり東京湾から飛び去った。
それから一週間後、都市閉鎖が解かれた。
 都市には明るい歓声が飛び交い、穏やかな日常が甦った。



 「それで、あいつから連絡はないのか?」

 「はい、全く。携帯も繋がりません。」

 「まぁ、良いさ。どうせあの番組は打ち切りが決まったんだから。」



 大船団と同時期に、どん太郎は忽然と姿を消した。
どん太郎がどこへ行ったのか、どん太郎の身に何が起きたのか…
それを知る者は誰もいない。
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