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幻のパン屋

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「おかしいな…確か、このあたりのはずなんだけど…」

「……そうよね。」

俺たちはその場に立ち尽くし途方に暮れた。



「ねぇ、パンdeミックに行こうよ!」

あの縁日で食べた焼き立てシュークリームの味が忘れられないと彼女が言うから、今日は店を探しに来たのだが、当の店がなかなかみつからないのだ。



「緑ヶ丘3丁目3の3で間違いないよね?」

「あぁ、間違いない。こんな簡単な住所、間違えようがねぇだろ。」

「そうだよね。」

だけど、あたりは住宅地で、とてもパン屋があるような雰囲気ではない。



「えっと…ここが3丁目2-8だから、こっちだよね?」

「そうだよな。」

俺たちが再び歩き出した時、ちょうど向こうから歩いて来る女性がいた。
俺たちはその人にパンdeミックのことを訊いてみることにした。



「あ、あの…すみません…
ちょっとお訊ねしたいのですが、このあたりにパンdeミックっていうパン屋さんはありませんか?」

「このあたりは見ての通りの住宅地よ。
パン屋さんなら駅前まで行かないと…」

「あ、ありがとうございました。」

やはり、思った通りの返事だった。



「おかしいな…とりあえず、3-3を探してみよう。」

私たちはしつこくパンdeミックを探す。



「3-3…ここか…」

そこには二階建てのごく普通の家が建っていて、パン屋の気配はまるでない。



「一体、どういうことなんだ?」

「……まさか……」

彼女が神妙な声で呟いた。



「まさかって、何なんだよ…」

「ねぇ…あの時…あそこに私達しかいなかったよね?
あんなに美味しいのに、おかしいと思わない?」

「だって…今はこういうご時世で…だから、いつもより客足も少なかったじゃないか。」

「本当にそれだけ?もしかして…私達……あの時、異空間にいたんじゃ…」

「い、異空間~!?」

彼女の話は突拍子もない話だが、なぜだかそんな馬鹿な!と笑い飛ばすことが出来なかった。



「考えてみれば、3丁目3-3なんてなんか嘘臭い住所じゃない?」

「え…そ、そうだな。」

「……大丈夫かな?
あのシュークリーム食べてからなんともない?」

「え?なんともって……あ!そういえば、あの後から胃の調子がちょっと…」

「えーーーーっ!?私もだよ…まさか、あのシュークリームに何かが…」

「お、おい、脅かすなよ!」

「タ、タクちゃん…と、とりあえず病院に行こう!」

「え……」

俺たちは、藁にもすがる想いで病院に駆け込んだ。







この時のふたりはまだ知らなかった。
パンdeミックは、隣の市の緑ヶ丘にあることを…
胃の調子が良くないのは、単に縁日で食べ過ぎたからだということを…
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