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初めての恵方巻
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「麻美、準備は良いか?」
健司さんが真剣な顔で私に問う。
「ええ。大丈夫よ。」
そして、私たちは各自恵方巻を手に、西南西のやや西を向いた。
健司さんが私の目を見て頷き、私も同じように頷き返した。
ここからはもう何も話せない。
私たちは、手に持った太巻きにかぶりつく。
そして、無心にそれを噛み、嚥下する。
海苔巻きを切らずに食べるのなんて初めてのことだ。
しかも、食べ終わるまで何もしゃべらず、飲み物さえ飲んじゃいけないなんて…
何も話せないという緊張のせいか、なかなか喉を通っていかない。
それでも、なんとか食べ切らなければならない。
けっこうな苦行だ。
私たちが大阪に引っ越して来たのは、おとといのことだった。
住み慣れた東北の地から、健司さんの転勤でこの地にやって来た。
職場の人たちはとても気さくな人らしく、引っ越して来た当日に同僚の人たちが我が家に引っ越し祝いに来てくれた。
まだ段ボールだらけだというのに、そんなことなど少しも気にしない様子だった。
そして、その時に教わったのが、恵方巻の風習だった。
地元にいた頃からそういうものがあることは知ってはいたけれど、おふたりが教えてくれたのは詳細な恵方巻の内容だった。
「ええか?早いこと、こっちの暮らしに慣れようと思たら、こっちのもんのやることを真似するんが一番や。
郷に入れば郷に従えていうことわざもあるやろ?」
「まずはあさっての恵方巻やな。」
「節分ですね。」
「こっちでは、節分のメインは恵方巻なんや。」
「あ、恵方巻、聞いたことがあります。
海苔巻きを切らずに食べるんですよね?」
「そうや。でも、ただ食べるだけやないで。
そもそも、恵方巻っちゅーもんはやな…」
そこから始まった恵方巻の情報を、私と健司さんはしっかりとメモった。
せっかく、おふたりが私たちのことを思って教えて下さってるんだもの。
こちらもそれに応えないと。
そして、あっという間に節分がやって来て…
「やった!食べ終えたぞ!」
健司さんがそう言って、お茶をぐびぐびと飲む。
私はあと少し…あと二口くらいかな。
焦る気持ちを押さえながら、私は必死に太巻きを飲み込んだ。
「やったー!」
私もさっきの健司さんと同じようにお茶を飲んだ。
「お疲れさん!」
「けっこう苦しかったわね。」
「本当だね。でも、なんか達成感みたいなものはあるよね。」
本当に苦しかった。
でも、これも大阪に慣れる第一歩なんだから。
恵方巻という行事を無事に済ませられたことに、私たちは胸を熱くした。
健司さんが真剣な顔で私に問う。
「ええ。大丈夫よ。」
そして、私たちは各自恵方巻を手に、西南西のやや西を向いた。
健司さんが私の目を見て頷き、私も同じように頷き返した。
ここからはもう何も話せない。
私たちは、手に持った太巻きにかぶりつく。
そして、無心にそれを噛み、嚥下する。
海苔巻きを切らずに食べるのなんて初めてのことだ。
しかも、食べ終わるまで何もしゃべらず、飲み物さえ飲んじゃいけないなんて…
何も話せないという緊張のせいか、なかなか喉を通っていかない。
それでも、なんとか食べ切らなければならない。
けっこうな苦行だ。
私たちが大阪に引っ越して来たのは、おとといのことだった。
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「まずはあさっての恵方巻やな。」
「節分ですね。」
「こっちでは、節分のメインは恵方巻なんや。」
「あ、恵方巻、聞いたことがあります。
海苔巻きを切らずに食べるんですよね?」
「そうや。でも、ただ食べるだけやないで。
そもそも、恵方巻っちゅーもんはやな…」
そこから始まった恵方巻の情報を、私と健司さんはしっかりとメモった。
せっかく、おふたりが私たちのことを思って教えて下さってるんだもの。
こちらもそれに応えないと。
そして、あっという間に節分がやって来て…
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健司さんがそう言って、お茶をぐびぐびと飲む。
私はあと少し…あと二口くらいかな。
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「やったー!」
私もさっきの健司さんと同じようにお茶を飲んだ。
「お疲れさん!」
「けっこう苦しかったわね。」
「本当だね。でも、なんか達成感みたいなものはあるよね。」
本当に苦しかった。
でも、これも大阪に慣れる第一歩なんだから。
恵方巻という行事を無事に済ませられたことに、私たちは胸を熱くした。
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