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初詣

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「便利屋さん、来て下さったんですね!」

 「は、はい、まぁ……」

 確かに躊躇う気持ちがなかったと言えば嘘になる。
 昨日の出来事は俺にとっても初めての体験だし、あれをどう理解すれば良いのかいまだにわからない。
だが、引き受けてしまった以上、ちゃんと応えたい。
だから、俺は今日もここへやって来たんだ。



 「お父様の具合はいかがですか?」

 「はい、まだ熱が高いんです。
それと……」

 巫女さんは、戸惑った様子で言葉を濁した。



 「……実は、昨日のことは父には話してないんです。
 話したら、無理をしそうですから…」

 「……そうなんですか?」

 「はい……実は……」

 俺の着替えを手伝いながら、巫女さんは話してくれた。
 彼女の祖父がこの神社に赴任して来た時、この神社は荒れ果て、参拝する者もいない程だったという。
それを祖父が懸命に立て直した。
その後を引き継いだのが彼女の父親だということだった。



そういう事情を考えれば昨日の出来事にもなんとなく符合するように思える。
だけど、それは本来あり得ないことだ。
 昨日の神主を『過去の人物』と考えなければならないのだから。



 昨日のことは考えないようにして、まだ暗い境内へ向かった。
まさか、今日は現れないだろうと思うが、やはりどこか怖い気持ちもあった。
そんな気持ちを無理に押さえて、俺は一心不乱に掃除した。



 (良かった……何もなかった。)



 空は明るくなり、境内の掃除も無事に終わった頃…
参道を歩く中年の女性がいた。
もちろん初対面だが、不思議とどこか懐かしいような気もした。
 女性と目が合うと、女性はにっこりと微笑み、俺に手招きした。
 俺は、女性の傍に向かった。



 「良かったら、一緒に参拝しませんか?」

 「え…は、はい。」

そういえば、今年はまだ初詣に行っていなかった。
せっかく神社に来たんだ。
 参るのも悪くない。
 俺は、女性と共に手水を済ませ拝殿に向かった。



 拝殿の前で俺は気付いた。
 賽銭を持っていないことに。



 「……どうぞ。」

 「あ、すみません。
あとでお返ししますので…」

 俺は差し出された百円硬貨を受け取った。
 女性の横で手を合わせ、目を閉じて、俺は今年の健康と無事を祈った。



 『どうもありがとう…』



 (え……?)



 不意に聞こえた声に目を開くと、そこに女性の姿はもうなかった。



 「え……?」



あたりには猫の子一匹いない。



 (……どういうことだ?)



 今回のことは、もう巫女にも話さなかった。
 俺の勘違いだと思うことにした。



この家の仏壇に、さっきの女性の写真が飾ってあることを、もちろん俺は知らなかった。
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