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伝言
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「はい、そんなことならお安い御用です。
引き受けさせていただきます。」
その日入った依頼は、掃除の依頼だった。
とても簡単な依頼だが、ただ、掃除をする場所が神社の境内で、朝が早いというのが多少の難点ではある。
*
(う~…寒い……)
俺は依頼された神社を目指し、まだ暗い街を自転車で駆け抜けた。
寒さのせいで、肌が突き刺されるように痛い。
朝早くから取り掛かってほしいということで、神社には3時半に着くように言われている。
(……ここだな。)
30分程自転車を漕いで、ようやく目的の神社に着いた。
思っていたよりもずっと広い神社だった。
これは、掃除にも時間がかかりそうだ。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
不意に声を掛けられ、目を凝らすとそこには赤と白の巫女装束を身に着けた女性が立ってた。
「あ…どうも…便利屋の東郷です。」
「どうぞ、こちらへ。」
俺は建物の中に誘われ、そこで温かいお茶をいただいた。
どうやら、巫女の父親である神主がインフルでダウンしたそうだ。
神主は境内を掃除するのが日課で、40度を越える熱を出しているのに掃除のことを言うので、俺に依頼したということだった。
「では、お着替えを…」
「え?これではいけませんか?」
「ええ……」
そこまでしなくても良いんじゃないかとは思ったが、依頼主の要望なら仕方がない。
俺は、白い着物に袴を着せられた。
どうやら、神主の普段着のようなものらしい。
「では、どうぞよろしくお願いします。
手を抜かず、真心を込めて掃き清めて下さい。
7時頃には終わるようにお願いします。」
「……わかりました。」
言われるままに俺は外へ出た。
いくら広いとはいえ、三時間も掃き掃除をするということは相当念入りにしなければならないということだ。
多少の戸惑いを抱えたまま、俺は隅から掃除を始めた。
夜はまだ明ける気配さえなく、月明かりだけではあまり良く見えない。
見えないながらもなんとか掃除を続けていると、突然、突風が吹き、集めたばかりの木の葉を舞い上がらせた。
「あっ!」
その衝撃に一瞬目を閉じ、再びその目を開けた時…
俺の前には、にこやかに微笑む神主が立っていた。
「わっ!」
急に神主が現れたことで俺はびっくりして声を上げた。
「……驚かしてすまぬ。」
「え?あ…は、はい。」
「そなたにはどうしても礼が言いたかったのだ。
だが、そなたは私には一向に気が付かぬ。
もう諦めかけていたのだが、諦めずに良かった。」
「え……?」
「この社をここまで回復させ、そして大事にしてくれて感謝している。
これからもどうかよろしく頼む。」
神主は深々と頭を下げた。
「え?あの…俺は、今日だけ掃除を頼まれた東郷という者で…」
「なんと……」
そう言った神主の姿が、急に薄くなってその場からかき消えた。
(え……!?)
俺はその場に立ち尽くしていたが、再び散らかった木の葉を集めた。
今の出来事について考えないよう、ただひたすらに、一心に…
その甲斐あって、7時には無事に掃除が済み、巫女さんもその出来栄えに満足してくれた。
「あの…おかしなことを言いますが…」
どうしたものかと少し迷ったが、俺はさっきの出来事を…神主からの伝言を巫女に伝えた。
巫女は、なぜだか目を潤ませ、何度も俺に頭を下げた。
(……俺……霊感なんてあったっけ??)
どこか不思議な気分を感じながら、俺は家路を急いだ。
引き受けさせていただきます。」
その日入った依頼は、掃除の依頼だった。
とても簡単な依頼だが、ただ、掃除をする場所が神社の境内で、朝が早いというのが多少の難点ではある。
*
(う~…寒い……)
俺は依頼された神社を目指し、まだ暗い街を自転車で駆け抜けた。
寒さのせいで、肌が突き刺されるように痛い。
朝早くから取り掛かってほしいということで、神社には3時半に着くように言われている。
(……ここだな。)
30分程自転車を漕いで、ようやく目的の神社に着いた。
思っていたよりもずっと広い神社だった。
これは、掃除にも時間がかかりそうだ。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
不意に声を掛けられ、目を凝らすとそこには赤と白の巫女装束を身に着けた女性が立ってた。
「あ…どうも…便利屋の東郷です。」
「どうぞ、こちらへ。」
俺は建物の中に誘われ、そこで温かいお茶をいただいた。
どうやら、巫女の父親である神主がインフルでダウンしたそうだ。
神主は境内を掃除するのが日課で、40度を越える熱を出しているのに掃除のことを言うので、俺に依頼したということだった。
「では、お着替えを…」
「え?これではいけませんか?」
「ええ……」
そこまでしなくても良いんじゃないかとは思ったが、依頼主の要望なら仕方がない。
俺は、白い着物に袴を着せられた。
どうやら、神主の普段着のようなものらしい。
「では、どうぞよろしくお願いします。
手を抜かず、真心を込めて掃き清めて下さい。
7時頃には終わるようにお願いします。」
「……わかりました。」
言われるままに俺は外へ出た。
いくら広いとはいえ、三時間も掃き掃除をするということは相当念入りにしなければならないということだ。
多少の戸惑いを抱えたまま、俺は隅から掃除を始めた。
夜はまだ明ける気配さえなく、月明かりだけではあまり良く見えない。
見えないながらもなんとか掃除を続けていると、突然、突風が吹き、集めたばかりの木の葉を舞い上がらせた。
「あっ!」
その衝撃に一瞬目を閉じ、再びその目を開けた時…
俺の前には、にこやかに微笑む神主が立っていた。
「わっ!」
急に神主が現れたことで俺はびっくりして声を上げた。
「……驚かしてすまぬ。」
「え?あ…は、はい。」
「そなたにはどうしても礼が言いたかったのだ。
だが、そなたは私には一向に気が付かぬ。
もう諦めかけていたのだが、諦めずに良かった。」
「え……?」
「この社をここまで回復させ、そして大事にしてくれて感謝している。
これからもどうかよろしく頼む。」
神主は深々と頭を下げた。
「え?あの…俺は、今日だけ掃除を頼まれた東郷という者で…」
「なんと……」
そう言った神主の姿が、急に薄くなってその場からかき消えた。
(え……!?)
俺はその場に立ち尽くしていたが、再び散らかった木の葉を集めた。
今の出来事について考えないよう、ただひたすらに、一心に…
その甲斐あって、7時には無事に掃除が済み、巫女さんもその出来栄えに満足してくれた。
「あの…おかしなことを言いますが…」
どうしたものかと少し迷ったが、俺はさっきの出来事を…神主からの伝言を巫女に伝えた。
巫女は、なぜだか目を潤ませ、何度も俺に頭を下げた。
(……俺……霊感なんてあったっけ??)
どこか不思議な気分を感じながら、俺は家路を急いだ。
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