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しくじり

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「もしもし…便利屋さんですか?」

 3日の昼過ぎに依頼の電話が入った。
 岡垣という男性からで、かすれた小さな声からは年齢も良くわからなかった。



なんでも、風邪を引いてしまい高熱が出ていてとても買い物にも行ける状態ではないから、必要なものを買ってきてほしいと、そういうことだった。



 (たばこって……)



 言われた買い物リストにあった『たばこ』に俺は違和感を感じた。
 風邪だというのに、なぜたばこなんか…
あ、そういえば、銘柄を聞いていなかった。
それを訊ねようと折り返し電話をかけたが、岡垣は電話に出なかった。
 仕方がないので、最もポピュラーだと思われる銘柄のたばこを買い、俺は岡垣の家に向かった。



 「どうもありがとうございます。」

 出迎えてくれた岡垣は、やつれて憔悴しきった顔をしていた。



 「えっと、これがレシートです。」

 「はい。」

 俺は金を受け取り、頼まれていた品物を手渡した。



 「あ、あの…すみませんが、おむすびとゆでたまごを作ってもらえませんか?
 昨日から何も食べてなくて…あ、もちろん、その分のお金も支払います。」

 「いいですよ、そのくらい。」

 俺は、岡垣の家にあがり、台所に入った。
おむすびを握らされるとは思ってなかったが、そのくらいは俺にも出来るはずだ。
 炊飯器には少し黄色くなったごはんが入っていた。
 見渡したところ、海苔もなさそうだが、塩むすびで良いんだろうか?
 何か具になるものはないかと冷蔵庫を開けると、そこにはほとんど食べるものはなく、たまごもなかった。



 「あの、岡垣さん…たまごは…?」

 「さっき、お願いしたはずですが…」

 「え?」

いや、頼まれた買い物にはたまごなんて…



(あ……)



その時になって、俺はようやく気付いた。
 岡垣が言ったのは、『たばこ』ではなく『たまご』だったのだと。



 「あ、すみません!買い忘れてました。
 今から買いに行って来ます!」



 俺は、焦ってその場から駆け出した。
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