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愛憎

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「うわぁ…綺麗だね。
すっごい幻想的だね。」

 冷え切った空気の中でライトアップされた氷柱が、あやしく光る。



 「……そうね。
 本当に綺麗ね。
……ふふ……はは…はははは!」

 「……どうしたの?慶子…
何がおかしいの?」

きょとんとした表情を浮かべる夫の前で、私の笑い声は止まらなかった。



 *



 「本当に仲がよろしくて、羨ましいわ。」

 「そんなことありませんわ。」

お世辞なのか本気なのかわからないけれど、私たちはよくそんなことを言われる。
 確かに、私たちは喧嘩をすることがない。
 彼は、夫として完璧な人間だ。
 記念日にはプレゼントを欠かさないし、私を怒らせるようなことは絶対に言わないし、しない。
 年に何度かは旅行にも行くし、私が美容院に行けば、似合ってるとか綺麗だとか言ってほめる。



でも、そこに私への愛はない。
 彼は、私が社長の娘だから結婚したに過ぎない。
その証拠に、彼は結婚してからもずっと浮気をしている。
 結婚前からの付き合いのある女…一夜限りの女…
彼は、ずっと私を裏切り続けているのだ。
だけど、彼は私の前ではそんなそぶりは全く見せない。
 興信所を使わなければ、私はずっと気付かなかったと思う。
そういうところも、彼は完璧なのだ。



 仕事が出来るということで、父が彼を気に入った。
 背が高く、手足が長くてイケメンで…
そんな彼に、私は一目惚れをした。
 私は決して容姿が良い方じゃない。
 父親譲りの細い目が子供の頃からずっとコンプレックスだった。
スタイルだって良くない。
 人より秀でているものは、ただ父親が社長で、昔からの資産家だというだけだ。



だけど、お金は人を惹きつける。
 子供の頃から、私には取り巻きがいた。
 彼もまたそんな一人だった。
だからこそ、彼は昔からの恋人を捨てて、私と結婚したのだ。



それはそれで良いと思う。
 私は、お金や地位のお陰で彼を手に入れた。
それで満足だったはずなのに…
なのに、彼の浮気を知ると、私は激しい嫉妬を感じた。
 私に向けるあの優しい笑顔が全部偽りだと思ったら、彼のことが憎くてたまらない気分になった。



 鋭くとがったあの氷柱を彼の体に突き立てて…
何度も何度も、容赦なく氷柱で刺し続けたら、どんなに気分が良いだろう…



そんなことを考えたら、私はおかしくて笑いが止まらなくなったのだ。
 彼は、私の想いがわからず戸惑うだけ…
周りの人々が私を見ている。
 闇の中に浮かぶ氷柱も、ただ黙って私を見ていた。 
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