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記憶

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「……ん、んん?」



どうやら俺は眠っていたようだ。
 年越しそばを食べて、見るとはなしに紅白を見て…最近出てるのは知らない歌手ばかりだ。
 退屈だから、スマホでパズルのゲームをしていたはずが、こたつの心地良い温かさのせいか、いつの間にか眠っていたようだ。



 耳に届くのは、鐘の音…
ぼんやりしながらも、それが除夜の鐘だと気が付いた。
 紅白はすでに終わって、除夜の鐘の中継に代わっていたのだ。
 新年まであとわずか。
 年が変わってもなんてことはないが、そうはいっても『新年』なのだ。



 (さて、起きるか…)



ゆっくりと体を起こす。
テレビでは、カウントダウンが始まった。



 「5,4,3,2,1…明けましておめでとうございます!」

 「おめでとう。」

 俺はテレビに向かって呟く。
 神棚でもあれば拝みたいところだが、あいにくうちにはそんなものはない。



 (今年も健康で過ごせますように。)



 俺の抱負と言えば、その程度のものだ。
 体さえ元気なら、たいていのことは乗り越えられる。
 特に、大きな夢や希望はないけれど、新しい年もとにかく元気で過ごしたいものだ。
そう思った時に、なぜだか紫織の顔が脳裏をかすめた。
 別れてもう何年もなるっていうのに、なんであいつの顔が…
 ……そんなことはわかってる。
 悔しいことに、俺はまだあいつに未練があるようだ。



 (まったく馬鹿だな…)



 今年は、婚活とやらを始めてみようか?
ふと、そんなことを考えてみたが、無理だろうことはすでにわかっている。
 俺の心の中からあいつが消えてしまうまで、きっと、誰かを愛することは出来ないだろう。



 (……とりあえず、寝るか……)



 大きなあくびをしながら、俺は立ち上がり、手早く布団を敷いた。



 (う~、さむ……)



 入ったばかりの布団は冷たい。
 独身の寂しさを痛感しながら、俺はそっと目を瞑った。
すると、瞼の奥にまた紫織の顔が出て来やがった。
 普段はクールなのに、笑うと途端に子供みたいな顔になる…その笑顔だ。
 俺の一番好きな顔…
自然と微笑んでしまった俺自身に気付いて、俺は恥ずかしさに布団をかぶった。
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