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栗拾い

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「痛っ!」

 「こらこら、何やってんだよ。
 素手で触る奴がいるか。」

 呆れ顔でそう言うと、圭祐は私の指に絆創膏を貼ってくれた。



 「いいか、まずは足でこうやって…
これで挟んで取る…と。」

 「圭祐…上手だね。」

 「こんなの誰だって出来る。」

 素っ気なくそう言うと、圭祐は拾った栗を籠に入れた。
あのお月見の日から、まだ一週間程しか経ってないっていうのに、私達は、また仲の良い幼馴染に戻っていた。



 詳しいことはわからないけど、お父さんが背負ってしまった借金は、とりあえず片付いたとのこと。
そして、取り上げられた土地を買い戻して…また家が建ったら、ご両親もこの町に戻って来るらしい。



セプテンバーバレンタインの彼女さんのことも話してくれた。
ただただ、借金を返すために働いていた時、その人だけが心の支えだったんだ、と。
でも、いつの間にか彼女さんの心は離れ、フラれてしまったのだ、と。
 今でもまだ未練があるんだって、圭祐は涙ぐんでた。



 次の日、早速、圭祐を家に呼んで、みんなで鍋をつついた。
その後も、圭祐は毎日みたいに家に来て…
そして、今日は栗拾いに誘われた。
なんでも、昔から懇意にしてる人の山だから、自由に拾って良いらしい。



 私はまだ話していない。
 二年前に離婚したことを。
もちろん、離婚に至った経緯だって。



 気の早いお母さんは、圭祐と再婚したら?…なんて言う。
 確かに、圭祐ならきっと家族ともうまくいく。
でも、結婚はそんなことだけでは出来ない。
そもそも、私達はただの幼馴染。
お互い、告白したことだってない。
 圭祐の気持ちはもちろんのこと、自分の気持ちさえよくわからない。



 (私…圭祐のことが好き…なのかな?)

 多分、昔は好きだったはず。
でも、今はどうなんだろう?



 「だいぶ集まったな。もうこのくらいで良いんじゃないか?」

 「そうだね。」

 「じゃあ、帰るか…」

 歩き始めた時、圭祐の手が私の手を握った。
ごく自然に…
びっくりしつつも、私は平静を装った。



 「栗ごはんなんてひさしぶり。」

 手の事なんて気にもしてないふりをして、そんなことを呟いた。



 「おばさん、料理うまいから楽しみだな。」

 圭祐はどういうつもりなんだろう?
 雰囲気的には、ただ子供が仲良しの子と一緒に帰る時みたいに、深い意味はなさそうだけど…



それなのに、私は心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしてる…
私…やっぱり、圭祐のことが好き…なのかな?

 
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