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今日は何の日

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「……久しぶり。」

 強張った顔が一瞬で緩んで、圭祐は私を手招きした。
 突然のことに私の心臓は飛び出して来そうになっていたけど、私はそれを悟られないよう、平然な顔をして招きに応じた。



 「座れよ。」

 微妙なスペースを空けて、私はブルーシートの片隅に座った。
お酒のにおい…圭祐の傍には、飲みかけの日本酒があった。



 「ひとりでお月見?」

 「あ…これ。」

 圭祐は私の質問には答えず、お団子を差し出し、私はそれに手を伸ばす。
 緊張して味もまったくわからない。
それなのに、私は相変わらず平静を装った。



 圭祐には聞きたいことがたくさんあった。
でも、何から聞けば良いのかわからなくて、言葉が出ない。
いや、それ以前に口の中にはお団子が入っている。
 静かだから、お団子の咀嚼の音が気になった。



 「琴美…今日、何の日か知ってるか?」

お団子を飲み込んだのと同時に、圭祐が訊ねた。



 「え?……十五夜?」

 「十五夜は昨日だ。
 今日は、セプテンバーバレンタイン。」

 「セプテンバー…バレンタイン?
バレンタインって、あのバレンタイン?」

 圭祐はふふっと肩を揺らして、カップの日本酒を一口飲んだ。



 「知らないよな、そんなの。
そんなマイナーなイベントを経験出来た俺…ある意味、すごい?」

 圭祐の笑いの意味は分からなかったけど、私も愛想笑いを浮かべた。



 「……圭祐。今どこに住んでるの?」

 圭祐の機嫌が良さそうだったから、勇気を出して訊ねてみた。



 「神社の傍のアパート…」

 「そうなんだ。実は、私もこっちに帰って来たんだ。
 今はおばあちゃんの家に住んでる。」

 「あぁ…」

 圭祐は投げやりな返事と共に頷いた。



 「琴美が来てくれてよかった。」

 「え?」

 「今日、セプテンバーバレンタインだから…
ひとりは嫌だったんだ。」

 「そ、そうなの?」

だから…何なのよ。
そのセプテンバーバレンタインって。



 不意に、私の手に、圭祐の手が重ねられた。
 急なことに、私は何も出来ず…まるで、十代の少女のようにときめいていた。
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