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こたつの奇跡

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(どうかしてるな…)



 空からは小雪がちらちら舞っている。 



 僕は、電車で二時間もかけて、実家に向かっている。
そんなことをしているのにはこの雪が関係している。 



このところ急に寒くなったせいか、僕はこたつが恋しくなった。 



そう…僕はこたつを取りに実家に行くんだ。 
 今は誰も住んでいない実家に… 



本当にどうかしてる。 
こたつなんて、近くの家電店かホームセンターで買えば良いのに… 
第一、こんな遠くから、僕はどうやってこたつを持って帰るっていうんだ? 
タクシーなんか頼んだら、こたつを買う何倍ものお金がかかる。 



 (やっぱり、僕はおかしいんだ。)



 駅からゆっくり歩いて10分ちょっと…
実家に帰って来たのは、かれこれ三年ぶりだ。



 玄関を開けた途端、何か空気がムッとしてるような気がした。
 寒いけど、どこも締め切ったままのせいだろう。
ブレイカーを上げて、僕は、とにかく、あちこちの明かりを付けて回った。
ほんの少しでも寂しさが紛れるように。



こたつは居間にあった。
こたつ布団が掛けられ、すぐにでも人を温める準備が出来ている。



 (そう…あれは今日みたいな小雪の降る夜だった…)



 僕は、こたつに足を突っ込み、電源のスイッチを入れた。
その時、目も眩むような眩い光に包まれて…



「もう~!お父さん、汁、飛ばさないでよ!」

 「そんなとこまで飛ばないだろう。」

 「飛んだわよ!」



 (えっ!?)



 僕の右には妹が…そして、左には父さんが座ってみかんを食べていて、向かいには母さんがいて、お茶をすすっていた。



 (なぜ?僕は頭がおかしくなったのか?)



 「冴子…おまえ、本当に細かいな。
みかんはすじに栄養があるらしいぞ。」

 「栄養があったっていやよ。すじは取らないと…」



あの日…本当は四人で食事にでかけるはずだった。
だけど、僕は残業になって…
別の日にしようかって言われたけど、僕はその頃、忙しくて、残業が多かったから、いつ行けるかわからないから三人で行って来てって、そう言って…



食事からの帰り道、三人は事故にあって、みんな一緒に逝ってしまった…



僕は、誰もいなくなったこの家にいるのがたまらず、引っ越して…



(そう…みんな、死んだんだ…)

 僕の頬を涙が伝う…



「お兄ちゃん、どうかしたの?」

 冴子が不思議そうな顔をして僕を見る。



 「光彦…こたつを持って帰るの大変だろう?
こたつを持っていくんじゃなくて、お前がここに戻ってきたらどうだ?」

 「えっ?」

 「そうよ、光彦…
ここには私達もいるじゃない。」



 父さんも母さんも妹も、じっと僕をみつめている。
 僕は、わけのわからないこの状況の中で混乱しながらも、久しぶりに家族に会えた嬉しさに震えていた。



 「そ、そうだよね…
こたつを持ってアパートまで帰るのは無理だよね…」

 「そうだ、光彦。
ここの方がおまえには合っている。」

 「ここには私達だけじゃない。
 助けてくれる人がいっぱいいるわよ。」

 「お兄ちゃん!久しぶりに犬でも飼ったらどう?」



 僕は、自分で思ってるよりもずっとおかしいのかもしれない。
こんな幻覚を見てるのだから。
でも、幸せな幻覚だ…出来ればずっと消えないで欲しい。



その時、玄関のチャイムが鳴り、僕が一瞬視線を外した隙に、三人の姿は忽然と消えていた。



 「……父さん?母さん?……冴子!」


 僕は周りを見渡した。
だけど、部屋の中には僕以外誰もいなくて…
二度目のチャイムが鳴り、僕は困惑しながら玄関に向かった。
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