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会いたくて…
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(あと三日…)
牽牛は、カレンダーをみつめ大きな溜息を吐いた。
たったの二日だと思えば気は楽かもしれないが、牽牛にとってはまだ二日もある…なのだ。
いくら自分たちが招いた結果だとしても、最愛の織姫に年に一度しか会えないのはあまりにも辛い。
しかも、去年は雨が降って、会うことが出来なかった。
もしも、今年の七夕も雨だったら…?
そんなことを考えると、牽牛の胸は張り裂けそうになるのだった。
(あぁぁ、我慢出来ない!
あと二日も辛抱するなんて、俺にはとても無理だ。
なんとか天の川を渡ることは出来ないのか!?)
このあたりには舟はない。
木を切り倒して、いかだを作ろうにもそもそも木を切る道具がない。
このあたりにあるのは、牛のための広い牧草地と、隣の農家の広い畑が広がっているだけだ。
(何かないのか?あの忌々しい川を渡れるなに…か…ん?)
今、隣の畑には、すいかが実っている。
それも特大のおばけすいかだ。
大柄な星の神のために作られている特別なものだ。
(そうだ!これだ!)
夜になると、牽牛は、こっそりと隣の畑に入って行った。
そして、大きなおばけすいかを転がしながら、家まで戻った。
家に戻ると、それを二つに割り、中身をかき出した。
大きいだけに、その作業には何時間もかかった。
(これなら水に浮くはず!)
牽牛はすいかの舟をずりずりと押しながら、天の川を目指した。
(待ってろよ、織姫!
今、会いに行くからな!)
すいかは、牽牛の期待通り、川に浮かんだ。
「やったーー!」
牽牛は、手を櫂代わりにして天の川を渡って行く。
しかし、そんな牽牛に、神が気付かないはずがなかった。
突然、起こった大波に、すいかの舟は翻弄され、牽牛は天の川に投げ出された。
「だ、だれか…助けて!」
天の川は、氷よりも冷たい川…
その中で浮いたり沈んだりを繰り返しながら、牽牛は岸に押し戻された。
*
「あらまぁ!」
二日後、織姫が牽牛の家を訪れると、牽牛は布団の中で赤い顔をしてうなっていた。
「一体、どうしたっていうの?」
「か、風邪ひいたみたいだ…」
牽牛の声は酷くかすれていた。
「今、おかゆでも作るわね。」
「ごめんな…世話かけて…」
「何言ってるの…私達、夫婦じゃない。」
優しく微笑む織姫に、牽牛も同じように微笑んだ。
酷い風邪をひいて苦しいけれど、今日は織姫がいてくれる。
ただそれだけで、幸せを感じる牽牛だった。
おわり
牽牛は、カレンダーをみつめ大きな溜息を吐いた。
たったの二日だと思えば気は楽かもしれないが、牽牛にとってはまだ二日もある…なのだ。
いくら自分たちが招いた結果だとしても、最愛の織姫に年に一度しか会えないのはあまりにも辛い。
しかも、去年は雨が降って、会うことが出来なかった。
もしも、今年の七夕も雨だったら…?
そんなことを考えると、牽牛の胸は張り裂けそうになるのだった。
(あぁぁ、我慢出来ない!
あと二日も辛抱するなんて、俺にはとても無理だ。
なんとか天の川を渡ることは出来ないのか!?)
このあたりには舟はない。
木を切り倒して、いかだを作ろうにもそもそも木を切る道具がない。
このあたりにあるのは、牛のための広い牧草地と、隣の農家の広い畑が広がっているだけだ。
(何かないのか?あの忌々しい川を渡れるなに…か…ん?)
今、隣の畑には、すいかが実っている。
それも特大のおばけすいかだ。
大柄な星の神のために作られている特別なものだ。
(そうだ!これだ!)
夜になると、牽牛は、こっそりと隣の畑に入って行った。
そして、大きなおばけすいかを転がしながら、家まで戻った。
家に戻ると、それを二つに割り、中身をかき出した。
大きいだけに、その作業には何時間もかかった。
(これなら水に浮くはず!)
牽牛はすいかの舟をずりずりと押しながら、天の川を目指した。
(待ってろよ、織姫!
今、会いに行くからな!)
すいかは、牽牛の期待通り、川に浮かんだ。
「やったーー!」
牽牛は、手を櫂代わりにして天の川を渡って行く。
しかし、そんな牽牛に、神が気付かないはずがなかった。
突然、起こった大波に、すいかの舟は翻弄され、牽牛は天の川に投げ出された。
「だ、だれか…助けて!」
天の川は、氷よりも冷たい川…
その中で浮いたり沈んだりを繰り返しながら、牽牛は岸に押し戻された。
*
「あらまぁ!」
二日後、織姫が牽牛の家を訪れると、牽牛は布団の中で赤い顔をしてうなっていた。
「一体、どうしたっていうの?」
「か、風邪ひいたみたいだ…」
牽牛の声は酷くかすれていた。
「今、おかゆでも作るわね。」
「ごめんな…世話かけて…」
「何言ってるの…私達、夫婦じゃない。」
優しく微笑む織姫に、牽牛も同じように微笑んだ。
酷い風邪をひいて苦しいけれど、今日は織姫がいてくれる。
ただそれだけで、幸せを感じる牽牛だった。
おわり
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