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 「おぉ、見事!
うまくゲートをくぐらせることが出来ました!」

 実況のアナウンサーが、興奮した様子で声を張り上げた。



 「さつきちゃんにゲートボールを教えた吉長さんにお話をうかがいましょう。」

 小柄な老人がどこか照れくさそうに、小さく頭を下げた。



 「吉長さん、猿にスポーツを教えるのはなかなか大変なことだと思いますが、どういうところが一番大変でしたか?」

 「そうですねぇ…」

 吉長は、猿との長い歴史に思いを馳せた。
 初めて彼が猿にキャッチボールを教えようと思ったのは、確か三十代半ばあたりのことだった。
なぜそんなことを思い付いたのか、そんなことはもう覚えてもいないようだ。
ただ、吉長は動物が昔から好きだったこともあり、なにか動物を飼おうと思い立ったちょうどその年がサル年だったこともあって、日本猿を飼い初め、それからしばらくして、ふと猿にキャッチボールを教えようと思い立ったのだ。
しかし、どれほど根気良く教えようと、猿にはキャッチボールが出来なかった。
 吉長は半ば意地になって教えこんだが、それでも猿はキャッチボールが出来ないまま、吉長が還暦を迎えてしばらく経った頃に死んだ。
 普通ならそれで諦めるのだろうが、数年後、吉長はまた日本猿を飼った。
それは、猿にキャッチボールを教えるという夢が諦められなかったからだ。
だが、当時の吉長はすでに若くはなかった。
 身体のいたるところにガタが来て、キャッチボールを教えることが負担に感じられた。
 転がったボールを追いかけるだけで、疲れてしまうのだ。
 数年後、吉長はキャッチボールではなく、ゲートボールを教えることを思い付いた。
そしてさらに数年の月日が流れた頃、さつきは、見事、ゲートボールが出来るようになっていたのだ。

 「一番大変だったのは、健康管理だったかもしれません。」

 「なるほど。無理に教えてストレスがたまったりしないようにですね。」

 「いえ、私の健康管理です。
 私が元気でないと、猿にスポーツを教えることは出来ませんから。」

 吉長はそう言って穏やかに微笑んだ。

 
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