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五月晴れ

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 (これを渡すだけだ。
それ以上のことは考えることないさ。)



お土産は誰か他の者にあげようかとも思ったけど、おふくろが千絵に手紙まで書いてしまったから、仕方なく俺はその旨を千絵に伝えた。
あいつが会いたくないならそれで良いと思ってたけど、意外にもあいつはすんなりと俺の誘いに乗ってくれた。



 *



 「ごめんな、わざわざ出て来てもらって…
せっかくだからめしでも食う?それとも……」

 千絵はただ頷いただけだった。
 曖昧な返事だったけど、一応、食事に行くということだろうと解釈して、俺は何度か行ったことのあるイタリアンの店に向かった。
 土曜の昼ということで、店はけっこう混んでいた。



 「これ、おふくろからの手紙と、お土産。」

 席に着いて、オーダーしてから、俺はそれらを手渡した。



 「ありがとう。」

 「いや、わざわざくだらないことで呼び出してすまなかった。
あ…体調はどうなんだ?」

 「う…うん。まぁまぁ…かな。」

 「そうか……」

お互いが無理して平静を装って…だけど、気まずい雰囲気はどうしても拭いきれない。
いつもなら、途切れることのない会話が、今日はなかなか出て来ない。
 早く料理が運ばれて来ないかと、俺はそればかり考えていた。



ようやく出て来た食事をつつきながら、遠慮しがちにぽつりぽつりと交わされる会話は、やはりいつもみたいに弾まない。



 「……じゃあ、そろそろ行こうか。」

 食後のコーヒーを飲み干してしまったら、俺にはそう言うしかなかった。
 千絵は、それに対してもただ小さく頷くだけだった。



 *



 「じゃあ…気をつけ…」
 「やっぱり、話してくれないんだ……」


 駅について、千絵を見送ろうとした時、千絵がそう言って俺に背を向けた。



 「話してくれないって…」

 何のことかと俺が戸惑っていると、千絵は目に涙をいっぱいためて振り向いた。



 「千絵…どうしたんだよ。」

 「直…私、知ってるんだから…!」

 「知ってるって、何を…?」

 「まだとぼける気!?」

 千絵の感情的な大きな声に、俺は思わず手を引いて、駅の近くのベンチに腰掛けた。



 「私…知ってるんだから…」

ベンチに座るなり、千絵はそう言って泣き出した。



 「だから、何を知ってるんだよ!」

 「どうして?どうして、あんた、そこまでとぼけるの!?」

 「とぼけるも何も、俺は本当にわからないからそう言ってるんだ!」

 俺もだんだん腹が立って来て、思わず大きな声を上げていた。

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