上 下
42 / 45

42

しおりを挟む




「でも、それは……」

イヴは差し出された皮袋をジュリアンに押し戻す。




「何言ってんだ。
これは、町の皆があんたのためにくれた金だぞ。
俺が持ってられるわけないじゃないか。さぁ!」

ジュリアンは、皮袋を無理にイヴの手の中にねじこんだ。



「ジュリアンさん……今回のこと……本当になんと言ったら良いのか…」

ジュリアンのことを気遣うように、ミリアムが小さな声で呟いた。



「おいおい、そんな顔するなよ。
俺はモテるから大丈夫だって、昨日も言っただろ?
俺のことを気にするより、イヴのことを頼んだぜ。
それと、これ……払い戻したら金になるだろう。」

ジュリアンは、ミリアムの前に二枚の乗船券を差し出した。



「だめです。
それはジュリアンさんのお金で買ったものなんですから…」

それが乗船券のことだと推測したイヴが、口を挟む。



「イヴ、新しい生活を始めるには金がかかるんだぜ。
あんたの手術費もかかるんだし、餞別代わりだと思って取っといてくれよ、な。」

イヴはその言葉に首を振り、深刻な顔をして俯いた。



「イヴ…どうかしたのか?」

「ジュリアンさん……
私……手術は受けないつもりなんです。」

イヴの言葉に、ジュリアンばかりではなくミリアムも驚き、目を丸くしてイヴの顔をみつめた。



「イヴ、それが一体、どういうことなんだい!?」

イヴは俯いたまま、言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。



「だって…私は、ミリアムさえいてくれたらそれで幸せなんですもの。
目はもうこのままで良いの。
手術を受ければ大金がかかる…
……第一、絶対に成功するとも限らない…
それに、うまく行かなかったら……きっと、みんなが傷付くと思うんです。
そんな想いをするくらいならこのままの法がずっと…
でも、もしも、ミリアムが今のままの私ではいやだと言うなら、私は……」

イヴの言葉が不意に途切れ、イヴは俯いて細い肩を震わせる。



「イヴ!馬鹿なことを言うんじゃない!
僕は、たとえ君の目が治らなくてもそれで君に対する想いが変わるわけじゃない。
でも、君の症状を話したら、先生はきっと治ると言ってくれた。
恩をきせるわけじゃないけど、僕は君のために今まで頑張ってきたんだよ。
君にこれからもいろんなものを見てもらいたいから、だから、頑張ったんだ…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天使からの贈り物・夢

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
たまたま入ったレストランには、とても気持ちの良い絵が飾られていた。 ジュリアンは、その絵を描いた画家志望の青年・アルドーとその恋人・ライラと関わることに… ジュリアンとエレスの旅物語・第3弾!

天使からの贈り物・誤算

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
ジュリアンとエレスの旅物語・第4弾です。 ある町で、ジュリアンはネイサンとポールという二人の炭鉱夫と仲良くなった。 その出会いは、ジュリアンに深い心の傷を与えることに…

天使からの贈り物・決意

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
単細胞の石好き男・ジュリアンと、石の精霊・エレスの不思議な旅物語・第5弾! 旅の途中でジュリアンが知り合ったのは、ラリーとスージーという仲の良い兄妹だった。 もうじき結婚することが決まっていたスージーの身に、とんでもないことが起きて…

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

処理中です...