天使からの贈り物・恋

恋

４０

＊



『……ジュリアン…本当にこれで良かったのか？』

ジュリアンが宿の部屋に着くなり、エレスが姿を現した。



「わ！また、おまえ急に……まぁ、いいや。
それにしても、ずいぶんとおまえらしくないことを言うんだな。」

ほろ酔い気分のジュリアンは、そう言いながら長椅子に腰掛け、機嫌の良さそうな顔で小さく微笑む。



『何が私らしくないと言うのだ？』

「……一度戻した時にはもう二度と戻れねぇってことは十分わかってんだろ？
だったら、これで良かったもなにもないじゃねぇか。
それに……」

ジュリアンの視線がどこか遠い所をさ迷い、エレスは黙ったまま、ジュリアンの言葉が続けられるのを待った。



「それに、俺……今、なんだか幸せな気分なんだ。
イヴは父親からもミリアムからも見捨てられたわけじゃなかった。
父親は、かみさんのためにもっと金を稼ごうとして…そして、ミリアムはイヴの目をなんとかして治そうと頑張ってたんだぜ。
……良い話だと思わねぇか？」

ジュリアンは膝を抱え、嬉しそうな顔で微笑む。



『それはそうだが……あのまま、船に乗って東の大陸に行っていたら、おまえの優しさに包まれて、イヴはきっとそのうち心の傷も乗り越え、おまえ達はずっと幸せに暮らせたと思う。
……それを思うと、私は残念なのだ。』

「おいおい、今日のおまえはやっぱりどうかしてるぜ。
そんなこと、俺に出来るわけないだろ。
俺はそんなに我慢強くない。
ミリアムはなんで追いかけて来たんだろうって、ずっとそのことを心の奥に隠しながら、平気な顔して暮らしていなんて、きっと俺には出来ないさ。
そんなこともわからないのか？
だから……これで良いんだ…
……いや、きっとこうなることは最初から決まってたんだな。」

『……決まっていた？……どういうことだ？』

エレスは、ジュリアンの向かいに腰掛け、ジュリアンの顔をじっとみつめる。