38 / 45
恋
38
しおりを挟む
「本当にすまなかった…」
そう言って不意にイヴの手を取った男に、イヴは短い叫び声を上げ、男は、逆にそのことに驚いて顔を上げる。
「どうかしたのか?」
男はまだイヴの目のことに気づいていないようで、不思議そうにイヴの顔をみつめる。
「いや…なんでもない。
それより、どういうことなのか話してくれ。
なんで、あんたがイヴに謝るんだ?」
イヴの代わりにジュリアンが口を挟んだ。
「あ…あぁ…それは…
あんたの父親はトーマスだよな?」
「え、ええ…そうですが…」
「トーマスは、突然、姿を消したんじゃねぇか?」
その質問にイヴは答えず、ただ黙って俯いた。
「それがどうかしたのか!?
あんた、イヴの父親の知り合いなのか?」
「知りあいってわけじゃねぇんだが…もう確か五~六年程前のことだと思う。
トーマスがこの町にやって来たんだ。」
「父さんがここへ!?」
イヴは驚き、男の方へ顔を上げた。
「あぁ…なんでも、かみさんが病気で金がいるから、仕事を探しに来たとか言ってたよ。
港の荷運びの仕事は確かにちょっと金は良いが、かなりきつい仕事だぞって…そんなことを話してると、トーマスは娘の写真を俺に見せたんだ。
文句一つ言わず、母親の面倒をみてくれる天使みたいな娘達だって、とても嬉しそうにな。
あんたの妹のメグって名前がうちの娘と同じだったんでよく覚えてたんだ。
それから、俺は現場にあいつを連れて行った。
続かなかったら困るから、普段運んでるのがどの程度の重さの荷物なのか担がせてみたり、どんな仕事なのかを教えてやってたんだ。
その日はちょいと急ぎの荷があって、いつもより現場は混んでた。
それがあいつの不幸だったんだな…」
そう呟いた男の顔に暗い影が差した。
「不幸って…何があったんだ!?」
「……ごった返してる現場で、あいつは運んでる荷物にぶつかって海に落ちた。」
「落ちたって…まさか、そのまま溺れたんじゃないだろう?
そこには人がたくさんいたんだよな?」
「あぁ……
トーマスが落ちたのを見て、そこらの奴らは笑った。
……皆、ふざけてると思ったんだ。
見た奴の話によると、あいつは一瞬驚いたような顔をして、そのまま静かに沈んでいったらしいんだ。
もがく様子もなかったらしい。
だいたい、ここらで働いてる奴の中には泳げない奴なんていねぇ。
こんな所で溺れることなんてありえないんだ。
……だが、あいつはなかなか浮かんで来なかった。
不安になって、何人かが潜った時には……あいつは……」
最後までは語られなかったその言葉から、イヴは父親の運命を知り、両手で口許を押さえて俯いた。
そう言って不意にイヴの手を取った男に、イヴは短い叫び声を上げ、男は、逆にそのことに驚いて顔を上げる。
「どうかしたのか?」
男はまだイヴの目のことに気づいていないようで、不思議そうにイヴの顔をみつめる。
「いや…なんでもない。
それより、どういうことなのか話してくれ。
なんで、あんたがイヴに謝るんだ?」
イヴの代わりにジュリアンが口を挟んだ。
「あ…あぁ…それは…
あんたの父親はトーマスだよな?」
「え、ええ…そうですが…」
「トーマスは、突然、姿を消したんじゃねぇか?」
その質問にイヴは答えず、ただ黙って俯いた。
「それがどうかしたのか!?
あんた、イヴの父親の知り合いなのか?」
「知りあいってわけじゃねぇんだが…もう確か五~六年程前のことだと思う。
トーマスがこの町にやって来たんだ。」
「父さんがここへ!?」
イヴは驚き、男の方へ顔を上げた。
「あぁ…なんでも、かみさんが病気で金がいるから、仕事を探しに来たとか言ってたよ。
港の荷運びの仕事は確かにちょっと金は良いが、かなりきつい仕事だぞって…そんなことを話してると、トーマスは娘の写真を俺に見せたんだ。
文句一つ言わず、母親の面倒をみてくれる天使みたいな娘達だって、とても嬉しそうにな。
あんたの妹のメグって名前がうちの娘と同じだったんでよく覚えてたんだ。
それから、俺は現場にあいつを連れて行った。
続かなかったら困るから、普段運んでるのがどの程度の重さの荷物なのか担がせてみたり、どんな仕事なのかを教えてやってたんだ。
その日はちょいと急ぎの荷があって、いつもより現場は混んでた。
それがあいつの不幸だったんだな…」
そう呟いた男の顔に暗い影が差した。
「不幸って…何があったんだ!?」
「……ごった返してる現場で、あいつは運んでる荷物にぶつかって海に落ちた。」
「落ちたって…まさか、そのまま溺れたんじゃないだろう?
そこには人がたくさんいたんだよな?」
「あぁ……
トーマスが落ちたのを見て、そこらの奴らは笑った。
……皆、ふざけてると思ったんだ。
見た奴の話によると、あいつは一瞬驚いたような顔をして、そのまま静かに沈んでいったらしいんだ。
もがく様子もなかったらしい。
だいたい、ここらで働いてる奴の中には泳げない奴なんていねぇ。
こんな所で溺れることなんてありえないんだ。
……だが、あいつはなかなか浮かんで来なかった。
不安になって、何人かが潜った時には……あいつは……」
最後までは語られなかったその言葉から、イヴは父親の運命を知り、両手で口許を押さえて俯いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

天使からの贈り物・夢
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
たまたま入ったレストランには、とても気持ちの良い絵が飾られていた。
ジュリアンは、その絵を描いた画家志望の青年・アルドーとその恋人・ライラと関わることに…
ジュリアンとエレスの旅物語・第3弾!

天使からの贈り物・決意
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
単細胞の石好き男・ジュリアンと、石の精霊・エレスの不思議な旅物語・第5弾!
旅の途中でジュリアンが知り合ったのは、ラリーとスージーという仲の良い兄妹だった。
もうじき結婚することが決まっていたスージーの身に、とんでもないことが起きて…

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる