天使からの贈り物・恋

ルカ(聖夜月ルカ)

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「あ……」

イヴを客室の片隅に座らせ、しばらくすると、あたりに低い汽笛が響き、ジュリアンの身体に船が動き出した振動が伝わった。



「イヴ、ここにいるんだぞ。」

ジュリアンはイヴの返事も待たずに客室を飛び出し、甲板に出ると、見送りの人々の中にミリアムの姿を探した。
ミリアムはとても沈んだ表情で、港を離れる船をじっとみつめていた。



(あいつは、イヴの目が悪くなった途端、イヴを置いて町を出たはずなのに、なんだって今頃…)

イヴを見捨てた憎い男は酷く哀しそうな目をしており、ジュリアンにはそのことが妙にひっかっかった。
ジュリアンは、出来る事ならミリアムを怒鳴りつけ、そして、イヴを探しに来た理由を聞きたいと思ったが、その気持ちとは裏腹にジュリアンとミリアムの距離はどんどん離れて行く。
見送り客の顔がぼんやりと霞んで見えるようになった頃、すっきりしない気持ちを胸に、ジュリアンは客室へ戻った。



「イヴ、すまなかったな。
大丈夫だったか?」

「ええ、私はなんともありません。
……ジュリアンさん、船はもう岸を離れたんですよね?」

「うん、離れたぜ。
……イヴ…それで、さっきの奴なんだけど…」

「言わないで!
お願いですから…それ以上は言わないで下さい。」

ジュリアンが最後まで言いきらないうちに、イヴは目を伏せ、消え入りそうな声でジュリアンに懇願した。



「……わかったよ。
……そうだ、イヴ、腹は減ってないか?
ちょっと早いが昼飯にするか?
それとも、何か飲み物でも…」

イヴは黙って首を振った。



「私は何もいりません。
ただ、しばらく、傍にいて下さい。」

「……わかった。」

ジュリアンはイヴの隣に腰を降ろした。
イヴは、ジュリアンの腕に腕を絡め、そっと身を寄せる。
ジュリアンはイヴにかける言葉がみつからず、そのまま、二人はただ黙ったままでその場に座りこんでいた。

 
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