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「……ありがとう。
俺にはたいしたことは出来ないかもしれないが、それでも出来る限りのことはするつもりだ。
ま、先のことはわからないが、イヴを幸せにするために全力を尽くす。
それだけは約束するよ。
それで、ロナウド…このあたりに港はないか?
イヴは船に乗ったことがないっていうから、この際、船に乗せてやろうと思ってんだ。
船なら歩いて行くよりもずっと早く遠くに行けるからな。」

「船か…ロマンチックで良いじゃねぇか!
なんたって新婚旅行みたいなもんだからな。」

「ば、ば、ばか!べ、べ、別にそんなんじゃねぇ!
ただの旅行だ!」

ロナウドは照れるジュリアンを見て、おかしそうに肩を震わせる。



「船は良いが、船賃は高いぞ。
あんた、金はあるのか?」

その言葉に、ジュリアンの表情が俄かに曇る。



「……それなんだよな。
最近はずっとイヴと遊んでばっかりだったから、手持ちの金は減る一方だ。
多分、船賃を使ってしまったらそれですってんてんになっちまう。」

「そんなことじゃあ、先が思いやられるな…
この町に住むのなら仕事も世話してやれるんだが、遠くへ行くならそうもできねぇ。
……あんた、仕事のあてはあるのか?
それに、行き先は決めてるのか?」

ジュリアンは力なく首を振る。



「あてなんか何もない。
……だけど、俺、身体だけは丈夫だし、力もけっこうあるから、ま、干上がるようなことはないだろう。
行き先だって、どこだろうがそう変わりはないだろうしな。」

「変わりないか…まぁ、どこか特別行きたい場所があるわけじゃないのなら、そんなのも良いかもしれないな。
そういや、あんた……けっこう良い身体してんな。
普段はどんな仕事してるんだ?」

「仕事っていうか、趣味みたいなもんなんだが……俺、石が好きで、石掘ってんだ。」

「石?
そりゃあ、余程の幸運がない限り、金にはなりそうにないな…
船を降りたら、もう少しまともな職に就くんだぜ。
……あ…そういやあ、船着場の近くに何か不思議な石が出る山があるとかなんとか聞いたことがあったなぁ。」

「不思議な石?
なんだそれ?
どんな石なんだ?」

石好きのジュリアンは、すかさずその「不思議な石」の話題に食いついた。



「俺は石なんかにゃ興味がないから覚えてねぇな。
また友達に聞いとくよ。
そんなことより、今夜は祝杯だ!
さぁ、ぐいっとやってくれ!」

ロナウドは、ジュリアンのグラスになみなみと酒を注ぎ入れる。
不思議な石の話が聞けないことを残念に感じながらも、ジュリアンは注がれた酒を一気に飲み干した。

 
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