16 / 45
恋
16
しおりを挟む
*
次の朝、いつものようにイヴの家へ向かうジュリアンの表情は、昨日までとは違い浮かないものだった。
『それにしても酷い顔だな…昨夜は眠れなかったのか?』
「ふんっ!知るか!」
目の下にくまを作ったジュリアンが、不機嫌に答える。
『…そうだ、ジュリアン。
昨日、イヴが果物がないから買って来てほしいと言ってたぞ。
今から買って来てくれ。』
「……おまえなぁ…なんでこんな所で言うんだ。
イヴの家はもう目の前じゃないか。」
『まぁ、そう言うな。
私だって忘れることくらいあるさ。
では、頼んだぞ…』
小さい舌打ちを残し、ジュリアンは今来た道を市場に向かって引き返す。
ジュリアンは不機嫌な顔をしてはいたが、内心ほっとした気分もあった。
今朝のジュリアンは、イヴに会うのが嬉しくもあり、恥ずかしく、悩みの種でもあったのだから…
*
『おはよう、イヴ。』
「…あ、エレスさん!おはようございます。
あぁ、びっくりした…」
イヴは不意に現れたエレスに、驚いたような顔を向けた。
『驚かせてすまない。
鍵が開いてたので勝手に入らせてもらった。』
「まぁ…私ったら鍵をかけ忘れてたなんて…
だめね、もっとしっかりしなくちゃ…
あの…それで、ジュリアンさんは?」
エレスにはまだ物質に自分を反応させることは出来ない。
ドアをノックして音を出すことも出来ないため、エレスは適当な嘘を吐いた。
『あぁ、あいつは何か買い物があるとか言って市場に行った。
少し遅れるが、先に行ってくれということだったので私一人で来た。』
「そうだったんですか。
じゃあ、朝食はジュリアンさんが来られてからで良いですね。」
『そうしよう…
イヴ……実は、君に少し話があるのだが…』
「……お話ですか?
なんですか?」
イヴは、エレスの声の向かいに腰を降ろし、神妙な顔を向けた。
『イヴ…君とジュリアンのことが町の噂になっていることは知っているか?』
「私とジュリアンさんのことが町の噂に…!?
いえ、全然知りませんでした。
でも、いつも三人でいるのに、なぜジュリアンさんだけが?」
『私は人と出会うのが嫌いだから、人目につく場所ではいつも少し離れた所にいる。
だから気付かれていないのだろう。
あいつはいつでも君の傍にいるし、声も大きいからな。』
エレスの姿が他の者には見えないことは当然イヴにも言えない。
そのことを取り繕うため、エレスは再び、嘘を吐いた。
次の朝、いつものようにイヴの家へ向かうジュリアンの表情は、昨日までとは違い浮かないものだった。
『それにしても酷い顔だな…昨夜は眠れなかったのか?』
「ふんっ!知るか!」
目の下にくまを作ったジュリアンが、不機嫌に答える。
『…そうだ、ジュリアン。
昨日、イヴが果物がないから買って来てほしいと言ってたぞ。
今から買って来てくれ。』
「……おまえなぁ…なんでこんな所で言うんだ。
イヴの家はもう目の前じゃないか。」
『まぁ、そう言うな。
私だって忘れることくらいあるさ。
では、頼んだぞ…』
小さい舌打ちを残し、ジュリアンは今来た道を市場に向かって引き返す。
ジュリアンは不機嫌な顔をしてはいたが、内心ほっとした気分もあった。
今朝のジュリアンは、イヴに会うのが嬉しくもあり、恥ずかしく、悩みの種でもあったのだから…
*
『おはよう、イヴ。』
「…あ、エレスさん!おはようございます。
あぁ、びっくりした…」
イヴは不意に現れたエレスに、驚いたような顔を向けた。
『驚かせてすまない。
鍵が開いてたので勝手に入らせてもらった。』
「まぁ…私ったら鍵をかけ忘れてたなんて…
だめね、もっとしっかりしなくちゃ…
あの…それで、ジュリアンさんは?」
エレスにはまだ物質に自分を反応させることは出来ない。
ドアをノックして音を出すことも出来ないため、エレスは適当な嘘を吐いた。
『あぁ、あいつは何か買い物があるとか言って市場に行った。
少し遅れるが、先に行ってくれということだったので私一人で来た。』
「そうだったんですか。
じゃあ、朝食はジュリアンさんが来られてからで良いですね。」
『そうしよう…
イヴ……実は、君に少し話があるのだが…』
「……お話ですか?
なんですか?」
イヴは、エレスの声の向かいに腰を降ろし、神妙な顔を向けた。
『イヴ…君とジュリアンのことが町の噂になっていることは知っているか?』
「私とジュリアンさんのことが町の噂に…!?
いえ、全然知りませんでした。
でも、いつも三人でいるのに、なぜジュリアンさんだけが?」
『私は人と出会うのが嫌いだから、人目につく場所ではいつも少し離れた所にいる。
だから気付かれていないのだろう。
あいつはいつでも君の傍にいるし、声も大きいからな。』
エレスの姿が他の者には見えないことは当然イヴにも言えない。
そのことを取り繕うため、エレスは再び、嘘を吐いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

天使からの贈り物・夢
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
たまたま入ったレストランには、とても気持ちの良い絵が飾られていた。
ジュリアンは、その絵を描いた画家志望の青年・アルドーとその恋人・ライラと関わることに…
ジュリアンとエレスの旅物語・第3弾!

天使からの贈り物・決意
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
単細胞の石好き男・ジュリアンと、石の精霊・エレスの不思議な旅物語・第5弾!
旅の途中でジュリアンが知り合ったのは、ラリーとスージーという仲の良い兄妹だった。
もうじき結婚することが決まっていたスージーの身に、とんでもないことが起きて…

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる