お題小説

099 ： １００年越しの想い

１

「また、おまえか…」

リュックがうんざりしたような視線をあいつに投げかけた。



 『おまえに、そんな口を聞かれるとは…私も落ちたもんだな。』

「俺達は、おまえと話すことはない。
さっさと消えてくれ。」

 『つれないことを言うな…
おまえは、話好きなんだろう？
せっかく私とあの女のことを話してやろうと思ったのに…残念だな。』

「クロワさんとのこと？
それは俺も気になってたんだ。
話せ！」

『おまえは本当に口のきき方を知らん無作法な男だな…
そんな奴に話すのはやめだ。』

「ちぇっ、どうせそんなことだろうと思ったぜ！」

「用がないのなら消えてくれ…」



その言葉にあいつが突然笑い声をあげた。



 『なんだ？ずいぶんと強気じゃないか…
子供のことが解決したからか？
それともこのお友達がいてくれるせいなのか？
私にすがって、泣きながら子供を助けてくれと懇願したあの頃のおまえとは別人のようだな…』

私は、それに対して何も答えなかった。
確かにその通りなのかもしれない…
身勝手な話だが、ミシェルの命が助かったとわかった時から、私の気持ちがあいつから離れたのは事実なのだ。
必要な時だけ頭を下げ、必要がなくなれば無下にする…
あいつが気分を壊すのも無理のない話だ…



『どうやら図星のようだな…』

「……約束を反故にしたことは悪いと思ってる…」

『どうだかな…』

「だが…私には、クロワさんを殺す事は出来ない。」

その想いは嘘ではない。
 今の私には、クロワを殺すことなど到底出来ることではない。



『もしも……
もしも、あんな事故にあわなけりゃ、おまえはあの女を殺ってたと思うか？』

「……あぁ…
殺ってただろうな…」

『我が子を救うためとはいえ、何の遺恨もない女を殺すことに躊躇いはなかったのか？』

「ないといえば嘘になる…
だが、それでもミシェルを救いたかった…」

 『そんなに我が子が可愛いか？
それなら、なぜ、そんな大切な子供を他人にくれてやったのだ？』

「マルタンは、ミシェルのためにそうしたんだ！
ミシェルが可愛いからこそ、あえてそうしたんだ！
おまえみたいな奴にマルタンの深い愛情がわかるもんか！」