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ルカ(聖夜月ルカ)

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098 : 返還

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「それが…とても不思議なのですが、あれからも私達のことを実の両親だと思っているのです。
おぼろげではありますが、寝たきりになる前の記憶まであるというのです。
私達とどこかへ遊びに行っただとか…もちろん、それは真実ではありません。
私達は、その頃にはまだ彼と出会ってはいないのですから。
しかし、彼が眠っている間に私達が話したこと等を、彼はしっかりと記憶しているのです。
それは、まるっきり間違いのない事実です。
妻が彼に歌って聞かせた歌も覚えていました。
毎日、世話をしてもらったことも覚えていると言います。
私達にも信じられないような話ですから、このことはお医者様には話さなかったのですが…」

「世の中には、医学的にはありえないようなこともたくさんあるのだと思います。
お医者様はそういうことはお信じにならないものです。
お話される必要はないと思いますよ。」

「そうですね…
それで…ヴィクトルさん、今日来られたのは…」

「お願いがあってきました。」

「……やはり、そうでしたか…」



「わ…私は離さないわ!
ミシェルは私達の子供だもの!!」



泣き叫ぶような声と共に、不意に、夫人が部屋に入って来た。



「アデル、落ち着きなさい。」

ベルガー氏は妻をなだめ、自分の隣に座らせた。



「実は…ミシェルに渡してほしものがあるのです。」

私は、夫妻の前に銀のロザリオを差し出した。



「これは…?」

「これは、ミシェルの母親のものです。
あの子を産んで、三ヶ月後に亡くなりました。
彼女は、修道女だったのです…」

「修道女…?!
なぜ、そんな人が子供を…」

「私も修道士でした。
つまり、私達は神に一生を捧げた身でありながらその禁を破り…ミシェルが出来たことがわかった時に修道院を逃げ出して来たのです。」

「……そうだったんですか…」
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