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098 : 返還
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夫人はミシェルを隠すようにして、そそくさと部屋の奥に消えてしまった。
私は居間に通され、しばらくするとベルガー氏がお茶を運んで来てくれた。
「どうぞ…」
「ありがとうございます。」
私とベルガー氏は一緒にお茶をすすった。
張り詰めた空気の中では、お茶の味を感じるゆとりもなかった。
部屋の中が静か過ぎて、お茶をすする音がやけに大きく感じられる。
「……ヴィクトルさん…それで、今日は…」
ベルガー氏が重々しく口火を切った。
「ミシェルのことなんですが…
その後、彼の身体の具合はいかがでしょうか?」
「そのことなら、彼が目覚めてから大きな町に検査に行ってきました。
先日、あなたと一緒に来られたお医者様もそうするようにおっしゃってましたし、私達も心配でしたから…」
「それで…?
それで、ミシェルの病状はどうだったのですか?」
「幸いなことにどこも悪くないということでした。
孤児院の院長先生や神父様からもミシェルの病気のことはうかがってましたので、お医者様にもそのことを言って、入念に検査していただいたのですが、頭の中に悪いものなどないということでした。
そういうものは自然に消える等ということはないそうで、おそらくは、最初に診た医師の診立て違いだったのではないかということでした。」
「そうでしたか…」
それが医師の診立て違い等ではないことは、私にはよくわかっていた。
彼の頭の中には、確かに悪いものがあった。
だが、それをあの陽炎の石がそれを治してくれたのだ。
そのことをベルガー氏に言えないのが残念だが、言った所でそんな話は彼も信じないだろう。
「ずっと寝たきりだったせいで、ちょっとした発育の遅れはあるようですが、他にどこも悪い所はないそうです。
発育の遅れも、じきに取り戻せるだろうとのことでした。」
「そうでしたか…
何から何まで、本当にどうもありがとうございました。
……それで、彼の記憶の方は…?」
私は居間に通され、しばらくするとベルガー氏がお茶を運んで来てくれた。
「どうぞ…」
「ありがとうございます。」
私とベルガー氏は一緒にお茶をすすった。
張り詰めた空気の中では、お茶の味を感じるゆとりもなかった。
部屋の中が静か過ぎて、お茶をすする音がやけに大きく感じられる。
「……ヴィクトルさん…それで、今日は…」
ベルガー氏が重々しく口火を切った。
「ミシェルのことなんですが…
その後、彼の身体の具合はいかがでしょうか?」
「そのことなら、彼が目覚めてから大きな町に検査に行ってきました。
先日、あなたと一緒に来られたお医者様もそうするようにおっしゃってましたし、私達も心配でしたから…」
「それで…?
それで、ミシェルの病状はどうだったのですか?」
「幸いなことにどこも悪くないということでした。
孤児院の院長先生や神父様からもミシェルの病気のことはうかがってましたので、お医者様にもそのことを言って、入念に検査していただいたのですが、頭の中に悪いものなどないということでした。
そういうものは自然に消える等ということはないそうで、おそらくは、最初に診た医師の診立て違いだったのではないかということでした。」
「そうでしたか…」
それが医師の診立て違い等ではないことは、私にはよくわかっていた。
彼の頭の中には、確かに悪いものがあった。
だが、それをあの陽炎の石がそれを治してくれたのだ。
そのことをベルガー氏に言えないのが残念だが、言った所でそんな話は彼も信じないだろう。
「ずっと寝たきりだったせいで、ちょっとした発育の遅れはあるようですが、他にどこも悪い所はないそうです。
発育の遅れも、じきに取り戻せるだろうとのことでした。」
「そうでしたか…
何から何まで、本当にどうもありがとうございました。
……それで、彼の記憶の方は…?」
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