624 / 641
098 : 返還
3
しおりを挟む
夫人はミシェルを隠すようにして、そそくさと部屋の奥に消えてしまった。
私は居間に通され、しばらくするとベルガー氏がお茶を運んで来てくれた。
「どうぞ…」
「ありがとうございます。」
私とベルガー氏は一緒にお茶をすすった。
張り詰めた空気の中では、お茶の味を感じるゆとりもなかった。
部屋の中が静か過ぎて、お茶をすする音がやけに大きく感じられる。
「……ヴィクトルさん…それで、今日は…」
ベルガー氏が重々しく口火を切った。
「ミシェルのことなんですが…
その後、彼の身体の具合はいかがでしょうか?」
「そのことなら、彼が目覚めてから大きな町に検査に行ってきました。
先日、あなたと一緒に来られたお医者様もそうするようにおっしゃってましたし、私達も心配でしたから…」
「それで…?
それで、ミシェルの病状はどうだったのですか?」
「幸いなことにどこも悪くないということでした。
孤児院の院長先生や神父様からもミシェルの病気のことはうかがってましたので、お医者様にもそのことを言って、入念に検査していただいたのですが、頭の中に悪いものなどないということでした。
そういうものは自然に消える等ということはないそうで、おそらくは、最初に診た医師の診立て違いだったのではないかということでした。」
「そうでしたか…」
それが医師の診立て違い等ではないことは、私にはよくわかっていた。
彼の頭の中には、確かに悪いものがあった。
だが、それをあの陽炎の石がそれを治してくれたのだ。
そのことをベルガー氏に言えないのが残念だが、言った所でそんな話は彼も信じないだろう。
「ずっと寝たきりだったせいで、ちょっとした発育の遅れはあるようですが、他にどこも悪い所はないそうです。
発育の遅れも、じきに取り戻せるだろうとのことでした。」
「そうでしたか…
何から何まで、本当にどうもありがとうございました。
……それで、彼の記憶の方は…?」
私は居間に通され、しばらくするとベルガー氏がお茶を運んで来てくれた。
「どうぞ…」
「ありがとうございます。」
私とベルガー氏は一緒にお茶をすすった。
張り詰めた空気の中では、お茶の味を感じるゆとりもなかった。
部屋の中が静か過ぎて、お茶をすする音がやけに大きく感じられる。
「……ヴィクトルさん…それで、今日は…」
ベルガー氏が重々しく口火を切った。
「ミシェルのことなんですが…
その後、彼の身体の具合はいかがでしょうか?」
「そのことなら、彼が目覚めてから大きな町に検査に行ってきました。
先日、あなたと一緒に来られたお医者様もそうするようにおっしゃってましたし、私達も心配でしたから…」
「それで…?
それで、ミシェルの病状はどうだったのですか?」
「幸いなことにどこも悪くないということでした。
孤児院の院長先生や神父様からもミシェルの病気のことはうかがってましたので、お医者様にもそのことを言って、入念に検査していただいたのですが、頭の中に悪いものなどないということでした。
そういうものは自然に消える等ということはないそうで、おそらくは、最初に診た医師の診立て違いだったのではないかということでした。」
「そうでしたか…」
それが医師の診立て違い等ではないことは、私にはよくわかっていた。
彼の頭の中には、確かに悪いものがあった。
だが、それをあの陽炎の石がそれを治してくれたのだ。
そのことをベルガー氏に言えないのが残念だが、言った所でそんな話は彼も信じないだろう。
「ずっと寝たきりだったせいで、ちょっとした発育の遅れはあるようですが、他にどこも悪い所はないそうです。
発育の遅れも、じきに取り戻せるだろうとのことでした。」
「そうでしたか…
何から何まで、本当にどうもありがとうございました。
……それで、彼の記憶の方は…?」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる