お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
621 / 641
097 : 欲望と理性

しおりを挟む
それからも、クロードとクロワによる説得の日々が続いた。
もう心は決まっていたはずなのに、説得の効果なのか、私の気持ちはまた逆のことを考えるようになっていた。



「そうだったんですか…
奥様は産後の肥立ちが悪くてお亡くなりに…
でも、それでしたら、なおさらミシェルはあなたにとってかけがえのない人じゃありませんか。
あなたにとってたった一人の肉親じゃありませんか!」

クロードの言葉に熱がこもる。
私は、母親だけではなく父親のこともすでに亡くなったとクロードやクロワに話した。
実際、もう亡くなっているかもしれないが、生きているといえば、家に戻らなくて良いのか等とまた余計なことを言われると思ったからだ。
弟のことも言わなかった。
家のことについても詳しいことは言わず、修道院で知り合った女性と駆け落ちして来たことだけを話しておいたのだ。



「それは、そうなのですが…」

「マルタンさん、なぜ、そう歯切れの悪い答えばかりをされるのです?
何度も申しております通り、経済的なことなら問題はありません。」

「私達皆が協力したら、あのご夫婦にひけを取らない位、ミシェルに愛情を注いで育てていくことが出来ると思います。
それに、ミシェルはもう八つ。
乳飲み子じゃないんですから、手もかからないじゃありませんか?」

「もちろん、彼が再びなにかのきっかけで寝たきりになったとしても、心配はありません。
私は医師ですし、クロワさんも病人の世話は慣れていらっしゃるのですから…」

彼らの気持ちは嬉しかった。
赤の他人である私にそこまでしてくれようというのだから。
彼らの言う通りなのかもしれない。
私一人では無理かもしれないが、そこまで協力してもらえれば、ミシェルに貧しい想いや寂しい想いもさせることなく立派に育てていくことは出来るだろう。



「もうしばらく考えさせて下さい。」



私はそれからの数日間、この問題についてもう一度考えてみた。
どうすべきなのか?
どうすることが、ミシェルのためになるのか…



そして、私は、ようやく最終的な結果に辿り着いた。
しおりを挟む

処理中です...