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ルカ(聖夜月ルカ)

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097 : 欲望と理性

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「マルタンさん、ちょっとよろしいですか?」

部屋に来たのは、クロワとクロードの二人だった。



「どうしたんですか?」

「ミシェルのことです。」

「そのことなら、もう…」

「マルタンさん、なぜそう結論を急がれるのですか?
結論を出すのは、もう少し考えてからでもかまわないではありませんか。」

「そうですよ、マルタンさん!
マルタンさんは記憶を取り戻されてから、あまりにもいろんなことを急がれてるように見うけられます。
私も先生と同じ意見なんです。
もう少し、お考えになられた方が良いのではありませんか?」

「それに、僕は医師としてこのまま彼の傍を離れたくないのです。
何年も眠ったままの少年が急に目覚める事自体めったにないことなのに、目が覚めた途端に病気までが消えうせることなどありえません。
医学の常識では考えられないことです。
ですから、離れるにしてもせめて検査の結果を確かめてからにしたいのです。」

「お二人が、私達のことを考えて下さるのは嬉しいのですが…
私も考えたのです。
もちろん、私だってミシェルと別れるのは辛い…
ですが…やはり、子供は両親揃った所で愛情に恵まれて育つのが良いのではないでしょうか…
あのご夫婦は、経済的にも裕福なようです。
私には、ミシェルをあんなに裕福に育てていくことは出来ません。
それに、彼は、あのご夫婦のことを本当の両親だと思いこんでいますから。」

「マルタンさん、僕はそのことにもひっかかっているのです。
一度も目を覚まさなかった…意識のなかったミシェルが、なぜあんなにもあのご夫婦のことを記憶しているのか…
あなたのことを忘れているのも不思議ですが、とにかく彼はまだ目覚めたばかりです。
彼の症状をもう少し調べてみたいのです。
あなたのこともきっと思い出すと思いますよ!
それに、経済的なことなら失礼ではありますが私にもご協力出来ることはあると思いますし、マルタンさんもまたご結婚されれば良いではありませんか。
このまま一生、独身で通されるおつもりではないのでしょう?」

ミシェルになにかあった時のためにもクロードがいてくれた方が良いと考えていたのだが、却って逆効果だったようだ。
彼は医師としての探究心で、ミシェルに強い関心を示している。
本当のことなど言えない私は、言い訳をするのに困ってしまった。
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