お題小説

095 ： 修道院

３３

「ミシェル…！！」



私は我が目を疑った。
なぜならば、ミシェルの腕は私ではなくこの家の主人の方に差し伸べられたのだから…



「ママ…」

「ミシェル！！わかるの？
ママのことがわかるの？！」

夫妻は、ミシェルにとりすがり、感激の涙を流している。



私には意味がわからなかった。
なぜ、ミシェルは、私ではなく彼をパパと呼ぶのか…
ミシェルは、ただの一度も目を覚ます事はなかったと彼らは言ったが、それではなぜミシェルが彼らのことを知り、パパ、ママと呼ぶのか…



「ミシェル！！」

いたたまれなくなった私はミシェルのそばに駆け寄り、彼の名を呼んだ。
ミシェルはゆっくりと私の方に顔を向けた。
それは、とても怪訝そうな眼差しだった。



「おじさんは、誰？」

「ミシェル？
私のことがわからないのかい？
パパだよ。
おまえのパパじゃないか！」

ミシェルはじっと私の方をみつめ、そして呟いた。



「違うよ。
僕のパパはこっちだよ。」

そう言って、この家の主人を指差し、にっこりと微笑んだ。



「ミシェル…」

私は立っているのがやっとだった。
そのことに気が付いたのか、リュックが傍らの椅子を勧めてくれた。
私は椅子に腰を降ろし、混乱した頭の中をなんとかまとめようとした。
その間にクロードが、夫妻にミシェルの日頃の様子を聞きながら彼の身体を診察していた。



「詳しいことは、ちゃんとした設備のある所で検査してみないとわかりませんが、今の所、このお子さんに問題のある所は見当たりません。」

クロードのその言葉が、私のかんに触った。



「先生！問題がないなんておかしいじゃありませんか。
この子は、私のことをすっかり忘れている。
しかも、ずっと眠ったままだったということだったのに、彼はこのご夫妻のことを認識している。
そんなことがあるんですか？！」

「マルタンさん、落ち着いて下さい。」

私は自分では気付かないうちに大きな声を出してしまっていたようだ。
ミシェルが、怯えたような視線で私をみつめていた。