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ルカ(聖夜月ルカ)

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095 : 修道院

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「長い間ミシェルの面倒をみていただいて、本当にありがとうございました。」

「おかしなことをおっしゃらないで!
あの子は私達の子供なんです!
面倒をみるのは当たり前のことです。
あなたにお礼を言ってもらう筋合いはないわ!」

この夫人が、ミシェルのことをどれほど愛しているのかがよくわかった。
本当にありがたいことだと思う。
しかし、ミシェルは私にとってもかけがえのない宝物だ。
本来ならば、こうして両親の揃った家庭で暮らすのが幸せなのかもしれない。
主人がどんな仕事をしているのかは知らないが、家の中を見ても、裕福な暮らしぶりだということがわかる。
ここにいれば、ミシェルは、幸せに育つことが出来るのかもしれない。
だが、そうだとしても、私は彼を手放すことは出来ない。
彼は私の命にも等しいものなのだから…



「私は…私は絶対にあの子をあなたに返すつもりはありませんから!!」

その気持ちは夫人も同じようだった。
それだけ言うと、夫人はその場で泣き崩れた。



「ヴィクトルさん…
私達は今まで彼のことを本当の子供だと思って育ててきました。
ただ、眠っただけとはいえ、毎日小さな変化があるものです。
手を握れば、握り返してくれることもあり、家内が歌を歌うと微笑むことさえあったのです。
定期的に伸びた爪や髪を切り、着せる服も少しずつ大きくなりました。
毎日、彼に話をしました。
他愛ない話ですが、私達はその時間がとても幸せだったのです。
彼は眠ったままでしたが、きっと彼には伝わっている…そんな風に感じていたのです。
私達は、何も望んではいません。
彼が一生あのままでも良いのです。
ただ、あの子のそばにいて世話が出来れば…それだけで幸せなのです。
ヴィクトルさん、お願いです!
どうか、私達の元からあの子を奪わないで下さい!!
あなたに差し上げられるものがあるのなら、なんでも差し上げます。
金でもなんでも…あなたが満足するだけの金額を集めてきますから、どうかミシェルだけは…!!」

 
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