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ルカ(聖夜月ルカ)

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095 : 修道院

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「こう言っては申し訳ないのですが…
本来、この孤児院では病気のお子さんを受け入れることはありません。
しかし、神父様のお口添えもありましたし、三ヶ月だけとのことでしたからお預かりしましたが、あなたは三ヶ月を過ぎても戻っていらっしゃいませんでした。
ただでさえ、人手の足りないここで、寝たきりのミシェルは特に手がかかって困っていたのです。
そんな時、ある夫婦がここを訪れました。
お気の毒な事にそのご夫婦はお子さんを亡くされ、それで養子を迎えようと考えられたようです。
そして、院内を見て歩かれていた時に、ミシェルに気付かれたのです。
ミシェルを見たお二人の様子は異常な程でした。
お話をうかがった所、お二人のお子さんはご病気で亡くなられたとのこと。
それも、ミシェルと同じ年恰好のお子さんだったらしく、それで、お二人は亡くなったお子さんを思い出されたようです。
お二人は長い間、ミシェルに付き添いながら、何事かを話しあわれていました。
そして、あろうことか、ミシェルを引き取りたいとおっしゃったのです。
私はあなたからお預かりした事情を話し、この子はだめだと言いました。
それでなくとも、悪い病気でいつその命が尽きるかもしれないのだということも話しました。
しかし、それでもお二人は諦めず、毎日、ミシェルを見舞って下さったのです。
私は困り果て、神父様にご相談しました。
神父様も困ってらっしゃるようですが、あなたはなかなか帰っていらっしゃらないし、ミシェルのためにもあのご夫婦に引き取られた方が良いのではないかとおっしゃり、そして、ミシェルは…」

「そんな!酷いじゃないか!
マルタンは…いや、ヴィクトルは、事故に遭って記憶を失ってたんだ!
それで、つい最近記憶を思い出してそれで…」

「記憶を失って…?
そんなことがあったんですか…
すみません。でも、ここには、必ず引き取りに来ると言ってそのままの親御さんもけっこういらっしゃるもので…それで、私…」

「院長…あなたが悪いのではありません。
私はあなたを責めるつもりはないのです。
それよりも、長い間ミシェルの面倒をみて下さったこと、感謝しています。
それで、ミシェルは今どこに?」

「ミシェルの行先は…神父様にお尋ね下さい。
神父様がご存知のはずです。」

私達は、その足で教会を訪ねた。
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