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095 : 修道院
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そうだ……父も最初は、私達、家族のことを想い、私達のために頑張っていてくれたのだ。
その結果、手にした莫大な金がそんな父を狂わせてしまったのだ。
本当に大切なものを見失わせてしまったのだ。
そう思うと、今まであんなに憎んでいた父への憎しみも少しだけ薄らいだ気がした。
ミシェルとの生活は貧しくとも穏やかで満ち足りたものだった。
最初のうちこそ、慣れない子育てに苦労はしたが、月日の流れと共に、ミシェルは立つ事が出来るようになり、言葉を話せるようになり、歩けるようになっていく。
そんな当たり前の成長が嬉しくて、苦労などとは感じなくなっていた。
これからは、ミシェルのために生きよう。
今度こそ、私は彼と共に幸せな家庭を築くのだ。
そう思った矢先、ミシェルが倒れた。
多少、身体の弱い子ではあったが、今まで突然倒れた事などなかった。
慌てて、近所の医者の所に連れて行くと、これといって悪い所はない、
疲れていたかなにかだろうということだった。
ほっとしたのも束の間、それから数ヶ月が経った頃、ミシェルがまた倒れた。
今度は以前の時よりもひどい状態だった。
頭を抱え、脂汗を流し苦しんだ末に倒れたのだ。
しかし、しばらくすると彼は回復し、医者の診立てもまたどこも悪くないという診断だった。
その頃からミシェルは頭痛を訴えることが多くなっていた。
私は、妙な胸騒ぎを感じ、ある時、彼を町の大きな病院へ連れて行った。
医師によると、ミシェルの頭の中には悪い出来物が出来ており、もうどうすることも出来ないということだった。
彼の命はあと一年もてば良い方だと言われてしまったのだ。
(そんな…
マリアやエリーズ、そして母を奪っただけではまだ足りず、この上、ミシェルまで、私から奪っていくとおっしゃるのですか?!)
私は神に祈った。
日に日に弱って行くミシェルを見ながら、時間さえあれば神に祈った。
どうか、彼を助けて下さいと…
彼を私の元から連れて行かないで下さいと…
しかし、私の祈りは届くことはなかった。
ミシェルの命の期限が迫っていた。
彼は、頭の痛みを訴えては泣き、痛み止めを飲んでは眠る…
眠ってる間だけ、痛みから解放される…そんな状態だった。
代われるものなら代わってやりたい!
そんなことを考えても、代われる事など出来ない。
私には、祈る事以外、彼になにもしてやれることがなかったのだ。
いつしか、私の神への祈りは憎しみへと変わっていた。
私から大切なものを奪っていこうとする神への憎しみが、悪しき者を引き寄せた。
その結果、手にした莫大な金がそんな父を狂わせてしまったのだ。
本当に大切なものを見失わせてしまったのだ。
そう思うと、今まであんなに憎んでいた父への憎しみも少しだけ薄らいだ気がした。
ミシェルとの生活は貧しくとも穏やかで満ち足りたものだった。
最初のうちこそ、慣れない子育てに苦労はしたが、月日の流れと共に、ミシェルは立つ事が出来るようになり、言葉を話せるようになり、歩けるようになっていく。
そんな当たり前の成長が嬉しくて、苦労などとは感じなくなっていた。
これからは、ミシェルのために生きよう。
今度こそ、私は彼と共に幸せな家庭を築くのだ。
そう思った矢先、ミシェルが倒れた。
多少、身体の弱い子ではあったが、今まで突然倒れた事などなかった。
慌てて、近所の医者の所に連れて行くと、これといって悪い所はない、
疲れていたかなにかだろうということだった。
ほっとしたのも束の間、それから数ヶ月が経った頃、ミシェルがまた倒れた。
今度は以前の時よりもひどい状態だった。
頭を抱え、脂汗を流し苦しんだ末に倒れたのだ。
しかし、しばらくすると彼は回復し、医者の診立てもまたどこも悪くないという診断だった。
その頃からミシェルは頭痛を訴えることが多くなっていた。
私は、妙な胸騒ぎを感じ、ある時、彼を町の大きな病院へ連れて行った。
医師によると、ミシェルの頭の中には悪い出来物が出来ており、もうどうすることも出来ないということだった。
彼の命はあと一年もてば良い方だと言われてしまったのだ。
(そんな…
マリアやエリーズ、そして母を奪っただけではまだ足りず、この上、ミシェルまで、私から奪っていくとおっしゃるのですか?!)
私は神に祈った。
日に日に弱って行くミシェルを見ながら、時間さえあれば神に祈った。
どうか、彼を助けて下さいと…
彼を私の元から連れて行かないで下さいと…
しかし、私の祈りは届くことはなかった。
ミシェルの命の期限が迫っていた。
彼は、頭の痛みを訴えては泣き、痛み止めを飲んでは眠る…
眠ってる間だけ、痛みから解放される…そんな状態だった。
代われるものなら代わってやりたい!
そんなことを考えても、代われる事など出来ない。
私には、祈る事以外、彼になにもしてやれることがなかったのだ。
いつしか、私の神への祈りは憎しみへと変わっていた。
私から大切なものを奪っていこうとする神への憎しみが、悪しき者を引き寄せた。
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