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095 : 修道院
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「ヴィクトル…ごめんなさい。
私、赤ちゃんが出来たみたいなの…」
「赤ちゃんが……」
驚きと喜びと困惑が一気に押し寄せてきた。
「どうしましょう、ヴィクトル…」
「決まってるじゃないか…」
私達は、荷物をまとめ、修道院から逃げ出した。
たいした金もないので、ただひたすら歩き続けた。
少しでも修道院の傍から離れようと、寝る間も惜しんで私達は歩き続けた。
家に帰れば金の心配はなくなるが、それだけはどうしてもしたくなかった。
昔の友人を頼ってみたが、家を出た私に彼らは冷たかった。
金を持たない私等、もはや友人ではないのだろう。
エリーズには身寄りもなく、親しい友人もいないとのことだった。
私達に頼れる者はいなかったのだ。
しばらくして、私達は小さなある町で住み込みの職をみつけた。
農場の下働きの仕事だ。
住み込みとは言っても、住まいは道具をしまっておくための薄汚い納屋。
食事も修道院よりもさらに粗末なものだった。
しかし、私達は選り好みが出来る状態ではない。
そんな劣悪な環境に耐え、エリーズも臨月まで働いた。
生まれた子供は男の子だった。
エリーズがその子にミシェルと名付けた。
たいした栄養を採ることも出来ずに出産したためか、エリーズの産後の肥立ちは悪く、子供を生んで三ヶ月後にあっけなく亡くなった。
彼女は最期に、こんなことになったのは神を裏切った罰だと涙を流した。
まだ二十一歳だった。
私の愛した人は皆、死んでしまう…
彼女も、私と出会わなければきっとこんなことにはならなかっただろう…
マリアだってそうだった。
私は、自分のことが死神のように思えた。
死神なら、闇の国へ戻るべきだ。
そう思ったが、私は子供を育てていかねばならない。
エリーズが、自分の命と引き換えにこの世に遺したこの子を守っていかなくてはならない。
それからの私は、少しでもミシェルに良い暮らしがさせてやりたくて、死に物狂いで働いた。
そんな時、ふと、父のことを思い出した。
まだ私が幼かった頃、父は私によくこんなことを言っていた。
「待っててくれよ!
おまえたちには絶対に良い暮らしをさせてやるからな。
もっとうまいものを食べさせて、もっと広い家に住ませてやるからな!
そのために、父さん、頑張るからな!!」
私、赤ちゃんが出来たみたいなの…」
「赤ちゃんが……」
驚きと喜びと困惑が一気に押し寄せてきた。
「どうしましょう、ヴィクトル…」
「決まってるじゃないか…」
私達は、荷物をまとめ、修道院から逃げ出した。
たいした金もないので、ただひたすら歩き続けた。
少しでも修道院の傍から離れようと、寝る間も惜しんで私達は歩き続けた。
家に帰れば金の心配はなくなるが、それだけはどうしてもしたくなかった。
昔の友人を頼ってみたが、家を出た私に彼らは冷たかった。
金を持たない私等、もはや友人ではないのだろう。
エリーズには身寄りもなく、親しい友人もいないとのことだった。
私達に頼れる者はいなかったのだ。
しばらくして、私達は小さなある町で住み込みの職をみつけた。
農場の下働きの仕事だ。
住み込みとは言っても、住まいは道具をしまっておくための薄汚い納屋。
食事も修道院よりもさらに粗末なものだった。
しかし、私達は選り好みが出来る状態ではない。
そんな劣悪な環境に耐え、エリーズも臨月まで働いた。
生まれた子供は男の子だった。
エリーズがその子にミシェルと名付けた。
たいした栄養を採ることも出来ずに出産したためか、エリーズの産後の肥立ちは悪く、子供を生んで三ヶ月後にあっけなく亡くなった。
彼女は最期に、こんなことになったのは神を裏切った罰だと涙を流した。
まだ二十一歳だった。
私の愛した人は皆、死んでしまう…
彼女も、私と出会わなければきっとこんなことにはならなかっただろう…
マリアだってそうだった。
私は、自分のことが死神のように思えた。
死神なら、闇の国へ戻るべきだ。
そう思ったが、私は子供を育てていかねばならない。
エリーズが、自分の命と引き換えにこの世に遺したこの子を守っていかなくてはならない。
それからの私は、少しでもミシェルに良い暮らしがさせてやりたくて、死に物狂いで働いた。
そんな時、ふと、父のことを思い出した。
まだ私が幼かった頃、父は私によくこんなことを言っていた。
「待っててくれよ!
おまえたちには絶対に良い暮らしをさせてやるからな。
もっとうまいものを食べさせて、もっと広い家に住ませてやるからな!
そのために、父さん、頑張るからな!!」
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