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095 : 修道院
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そして、その時、私がマリアにひかれた理由に思い当たった。
そう……彼女は、この母に似ていたのだ。
質素で真面目で繊細な気持ちを持つ母親に。
だから私は、そんな彼女にひかれてしまったのだろう。
彼女に、私や弟を心から愛してくれた母親の面影を感じていたのかもしれない。
しかし、そんなマリアももういない…
せめて、これからは母には優しくしてやろう。
それは、マリアへの贖罪の気持ちでもあったのかもしれない。
私は、それから、一日のほとんどを母と過ごすようになった。
彼女には、私が誰だかもよくわかっていないようだったが、自分が大切にされているということはわかっているようで、笑顔が多くなった。
手を繋ぎ、庭を散歩する時は特に嬉しそうな笑顔を見せた。
気の毒な母…
実際の年よりもずっと年老いて見える。
体力もめっきり衰えていた。
母と過ごしているうちに、私は精神的な落ち着きを取り戻していることに気が付いた。
訳もなく、涙がこぼれるようなことはもうなくなった。
父親は私を疎ましく思っているのか、私が実家に戻ってきてから、一度も姿を表すことはなかった。
そんなある日、いつものように庭を散歩をしていた母が突然倒れた。
「母さん!しっかり!!」
すぐに主治医が駆け付けたが、彼は母の容態を見て、ただ首を振るだけだった。
「ヴィクトル…ありがとう…
何もしてあげられなくて、ごめんなさいね…」
苦しい息の下でそう言ったのが母の最期の言葉だった。
その言葉を口にした後、母は眠るように静かに旅立った…
最期の母は、はっきりと私のことを認識していたように思えた。
それとも、ただの妄想だったのか…
そのことが私の心を苦しめていた。
どうせなら、私のことなどわからないまま、何も残さずに旅立って欲しかった…
やっとみつけた私の生き甲斐のようなものがまたも虚しく私の手をすりぬけて行ったのだ。
しかし、一体、なぜ…
後になって、主治医に聞かされた。
母の身体はすでにだいぶ以前から病魔に冒されていたということを。
あんなに年老いて見えたのもそのせいだったのだ。
「なぜ、もっと早くに教えてくれなかった!」
そう言って主治医を殴り付けたい衝動にかられたが、母の顔がちらついて出来なかった。
そう……彼女は、この母に似ていたのだ。
質素で真面目で繊細な気持ちを持つ母親に。
だから私は、そんな彼女にひかれてしまったのだろう。
彼女に、私や弟を心から愛してくれた母親の面影を感じていたのかもしれない。
しかし、そんなマリアももういない…
せめて、これからは母には優しくしてやろう。
それは、マリアへの贖罪の気持ちでもあったのかもしれない。
私は、それから、一日のほとんどを母と過ごすようになった。
彼女には、私が誰だかもよくわかっていないようだったが、自分が大切にされているということはわかっているようで、笑顔が多くなった。
手を繋ぎ、庭を散歩する時は特に嬉しそうな笑顔を見せた。
気の毒な母…
実際の年よりもずっと年老いて見える。
体力もめっきり衰えていた。
母と過ごしているうちに、私は精神的な落ち着きを取り戻していることに気が付いた。
訳もなく、涙がこぼれるようなことはもうなくなった。
父親は私を疎ましく思っているのか、私が実家に戻ってきてから、一度も姿を表すことはなかった。
そんなある日、いつものように庭を散歩をしていた母が突然倒れた。
「母さん!しっかり!!」
すぐに主治医が駆け付けたが、彼は母の容態を見て、ただ首を振るだけだった。
「ヴィクトル…ありがとう…
何もしてあげられなくて、ごめんなさいね…」
苦しい息の下でそう言ったのが母の最期の言葉だった。
その言葉を口にした後、母は眠るように静かに旅立った…
最期の母は、はっきりと私のことを認識していたように思えた。
それとも、ただの妄想だったのか…
そのことが私の心を苦しめていた。
どうせなら、私のことなどわからないまま、何も残さずに旅立って欲しかった…
やっとみつけた私の生き甲斐のようなものがまたも虚しく私の手をすりぬけて行ったのだ。
しかし、一体、なぜ…
後になって、主治医に聞かされた。
母の身体はすでにだいぶ以前から病魔に冒されていたということを。
あんなに年老いて見えたのもそのせいだったのだ。
「なぜ、もっと早くに教えてくれなかった!」
そう言って主治医を殴り付けたい衝動にかられたが、母の顔がちらついて出来なかった。
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