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095 : 修道院
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母は、家庭が壊れていくと共に少しずつ精神を蝕まれていった。
元々、あの父親がなぜ母を選んだのかわからない程、彼女は地味で真面目な女だった。
裕福になっても宝石やドレスを欲しがることもなく、ただ、家族が元気で仲良くあれば良いと…そんなことを考える女だった。
小さい頃は、私や弟のことを宝物だとよく言っていた。
しかし、彼女のそんな想いとは裏腹に家庭はどんどん壊れていく。
皆が勝手なことをするようになっていった。
中でも父親は愛人を平気で家に連れ込むようになり、たまに会うと両親は言い争いが絶えなくなった。
弟はそんな家に見きりを付けたのか、早くに家を出てしまった。
私は、弟よりもずるく生きてやろうと考えた。
家を出て苦労をするより、ここにいて良い想いをしようと考えたのだ。
家にはほとんど寄り付かなかったが、金がなくなってもすぐにもらえるように家の近所に私専用の家を買い、そこで快適な生活を満喫していた。
何一つ足りないものはない満たされた生活…
ただ、心の中は、相変わらず空虚だったが、それが寂しいとか辛いという感覚はなかった。
ある時、友人のフィリップとパトリスが私の家を訪れた。
「ヴィクトル、知ってるか?
最近、町のはずれに引っ越してきた女がいることを…」
「いや、知らないな。」
「知らないのか?
最近ったって、もう三ヶ月にはなるぜ。
……まぁ良い。
そこには、マリアっていう娘がいるんだけどな、年は俺達とほとんど変わらないと思うんだが、それが真面目を絵に描いたような女でな。
まるで修道女みたいな格好をしてるんだ。」
「その女がどうかしたのか?」
「この前、からかい半分で、『このあたりをご案内しましょうか?』って言ったら、『けっこうです。私は知らない男性とはお話出来ません!』なんて言いやがってさ。
たいした面もしてないくせに、何をお高くとまってやがるんだか。」
「それで、なんなんだ?」
「あんたに、あの女を可愛がってやってほしいんだ。
本気であんたに惚れさせて、そしてぼろきれみたいに捨てる。」
「なぜ私がそんなことを…?
美人ならともかく、たいした女じゃないんだろ?
そんな面倒なこと、ごめんだな。」
元々、あの父親がなぜ母を選んだのかわからない程、彼女は地味で真面目な女だった。
裕福になっても宝石やドレスを欲しがることもなく、ただ、家族が元気で仲良くあれば良いと…そんなことを考える女だった。
小さい頃は、私や弟のことを宝物だとよく言っていた。
しかし、彼女のそんな想いとは裏腹に家庭はどんどん壊れていく。
皆が勝手なことをするようになっていった。
中でも父親は愛人を平気で家に連れ込むようになり、たまに会うと両親は言い争いが絶えなくなった。
弟はそんな家に見きりを付けたのか、早くに家を出てしまった。
私は、弟よりもずるく生きてやろうと考えた。
家を出て苦労をするより、ここにいて良い想いをしようと考えたのだ。
家にはほとんど寄り付かなかったが、金がなくなってもすぐにもらえるように家の近所に私専用の家を買い、そこで快適な生活を満喫していた。
何一つ足りないものはない満たされた生活…
ただ、心の中は、相変わらず空虚だったが、それが寂しいとか辛いという感覚はなかった。
ある時、友人のフィリップとパトリスが私の家を訪れた。
「ヴィクトル、知ってるか?
最近、町のはずれに引っ越してきた女がいることを…」
「いや、知らないな。」
「知らないのか?
最近ったって、もう三ヶ月にはなるぜ。
……まぁ良い。
そこには、マリアっていう娘がいるんだけどな、年は俺達とほとんど変わらないと思うんだが、それが真面目を絵に描いたような女でな。
まるで修道女みたいな格好をしてるんだ。」
「その女がどうかしたのか?」
「この前、からかい半分で、『このあたりをご案内しましょうか?』って言ったら、『けっこうです。私は知らない男性とはお話出来ません!』なんて言いやがってさ。
たいした面もしてないくせに、何をお高くとまってやがるんだか。」
「それで、なんなんだ?」
「あんたに、あの女を可愛がってやってほしいんだ。
本気であんたに惚れさせて、そしてぼろきれみたいに捨てる。」
「なぜ私がそんなことを…?
美人ならともかく、たいした女じゃないんだろ?
そんな面倒なこと、ごめんだな。」
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