お題小説

094 ： 名声と恋

１７

「……そうか…
あんたが諦めてるなら仕方ないな…
俺は、クロワさんがあんたと一緒になれば良いなと思ってたんだけどなぁ…
残念だ。」

「リュックさん、マルタンさん！
明日は、診療所でクロワさんの送別会をしようと思ってるんですよ。
他のナースや、近所の人も呼んで盛大に…
ぜひ、いらして下さいね！」

「そうか…わかったよ。」

クロードとの話し合いは、思ったよりも早くに終わった。
クロードの話ぶりを聞いて、リュックも諦めざるを得なかったようだ。
そうはいっても、やはりどこかやりきれない想いがあったようで、結局、私達は朝まで酒場で過ごしてしまった。



＊



「リュック、急がないと送別会に間に合わないぞ。」

「送別会ねぇ…なんだか気が進まないな。」

「まぁ、そういうなよ。
顔だけ出して帰って来れば良いじゃないか。」

重い足取りのリュックを急きたて、私達はクロワに花束を買い、診療所へ向かった。



「おっ！けっこう集まってるな！」

普段は娯楽室として使われてるその部屋は綺麗に飾りたてられ、テーブルにはたくさんの料理や花束が置かれていた。



「マルタンさん、リュックさん、来て下さったんですね！」

「クロワさん、お疲れ様。」

「まぁ、お花まで持って来て下さったんですね。
どうもありがとうございます！」

「しかし、すごい人だな。」

 娯楽室にはどこから集まってきたのか、入りきれない人の人が溢れていた。



「マルタンさん、リュックさん！」

「あ、先生…」

「クロワさんがやめると聞いて、ここに通われてた患者さん達がこんなに集まって下さったんですよ。
クロワさんは本当によく働いて下さいましたから。」

「残念だな…本当に…」

クロワはこの診療所でとても信頼される存在になっていたようだ。
中には、涙を流しながらやめないでほしいと懇願する老人もいた。
しかし、それでもおそらく彼女の気持ちは変わらないだろう。
本当に旅に出たくなったのか、それとも別の理由があったのか、彼女の本意は私にはわからない。

私達は、数時間をその場で過ごし、その後は旅に必要なものを少し買い足して宿舎に戻った。
あと二日でこの町を離れるのだから…