578 / 641
094 : 名声と恋
16
しおりを挟む
*
「先生、ここだ!!」
私達は町外れの小さな酒場で待ち合わせた。
「すまないな、こんな所で…
町の酒場だと誰かに見られるかもしれないと思ってな。」
「人に見られてはいけないような話なんですか?」
「まぁな…」
もっと気落ちしているのではないかと考えていたのだが、クロワが診療所をやめると決まったにしては、彼の様子は意外な程、平静だった。
「単刀直入に聞かせてもらうぜ。
クロワさんが、診療所をやめるって言ってるだろ?
あんた、それで良いのかい?」
「良いもなにも、クロワさんがそうお決めになったのですから、仕方がありません。」
「なんだ…意外とあっさりしてるんだな。
俺はまた、あんたはクロワさんに惚れてるのかと思ってたよ。
俺の勘違いだったのか…」
「いえ…勘違いではありません。
僕は…クロワさんを真剣に愛しています。」
「真剣に?
それは、どのくらい真剣なんだ?
所帯を持ちたいってくらい真剣なのか?」
「その通りです。
私は、この数ヶ月間、クロワさんと一緒に働き、クロワさんの人柄に惚れこみました。
こんな年をしてお恥ずかしい話なんですが、こんな気持ちになったのは正直言って初めてのことです。
彼女とずっと一緒に診療所を続け、そして家庭も持てたらどんなに幸せなことかと思います。」
「だ、だったら、なんで止めないんだ!」
リュックが驚くのも当然だ。
それほど愛しているクロワが去って行こうとしてるのに、なぜクロードはこれほどまでに冷静でいられるのか、私にもわからなかった。
「クロワさんは、言い出したら聞かない所がおありになる。
それに、何か彼女の心の中には大きな闇があるようです。
それがなくならない限り、きっと僕の思った通りにはならないでしょう。」
「あんたなぁ…なんでそう冷静なんだ。
そのことには、俺達も気付いてたさ。
クロワさんにはなにかある。
それは確かだと思う。
でも、それをなんとかするのがあんたの役目なんじゃないのか?」
「クロワさんがあの年になるまでずっと抱えてきた闇ですよ。
僕がいくら彼女のことを愛してたとしても、急にどうこう出来るものではないと思うのです。」
「だから、引き止めないっていうのか?!
あんたの言ってることは正論かもしれないが、俺には理解出来ないな。」
「では、リュックさんならどうされますか?」
「俺だったら、なんとしても引き止める!
部屋の中に閉じこめてでも、行かせないな!」
「それはまたずいぶんと乱暴ですね。」
クロードはリュックの言葉に微笑みながら、ゆっくりとグラスを傾けた。
「先生、ここだ!!」
私達は町外れの小さな酒場で待ち合わせた。
「すまないな、こんな所で…
町の酒場だと誰かに見られるかもしれないと思ってな。」
「人に見られてはいけないような話なんですか?」
「まぁな…」
もっと気落ちしているのではないかと考えていたのだが、クロワが診療所をやめると決まったにしては、彼の様子は意外な程、平静だった。
「単刀直入に聞かせてもらうぜ。
クロワさんが、診療所をやめるって言ってるだろ?
あんた、それで良いのかい?」
「良いもなにも、クロワさんがそうお決めになったのですから、仕方がありません。」
「なんだ…意外とあっさりしてるんだな。
俺はまた、あんたはクロワさんに惚れてるのかと思ってたよ。
俺の勘違いだったのか…」
「いえ…勘違いではありません。
僕は…クロワさんを真剣に愛しています。」
「真剣に?
それは、どのくらい真剣なんだ?
所帯を持ちたいってくらい真剣なのか?」
「その通りです。
私は、この数ヶ月間、クロワさんと一緒に働き、クロワさんの人柄に惚れこみました。
こんな年をしてお恥ずかしい話なんですが、こんな気持ちになったのは正直言って初めてのことです。
彼女とずっと一緒に診療所を続け、そして家庭も持てたらどんなに幸せなことかと思います。」
「だ、だったら、なんで止めないんだ!」
リュックが驚くのも当然だ。
それほど愛しているクロワが去って行こうとしてるのに、なぜクロードはこれほどまでに冷静でいられるのか、私にもわからなかった。
「クロワさんは、言い出したら聞かない所がおありになる。
それに、何か彼女の心の中には大きな闇があるようです。
それがなくならない限り、きっと僕の思った通りにはならないでしょう。」
「あんたなぁ…なんでそう冷静なんだ。
そのことには、俺達も気付いてたさ。
クロワさんにはなにかある。
それは確かだと思う。
でも、それをなんとかするのがあんたの役目なんじゃないのか?」
「クロワさんがあの年になるまでずっと抱えてきた闇ですよ。
僕がいくら彼女のことを愛してたとしても、急にどうこう出来るものではないと思うのです。」
「だから、引き止めないっていうのか?!
あんたの言ってることは正論かもしれないが、俺には理解出来ないな。」
「では、リュックさんならどうされますか?」
「俺だったら、なんとしても引き止める!
部屋の中に閉じこめてでも、行かせないな!」
「それはまたずいぶんと乱暴ですね。」
クロードはリュックの言葉に微笑みながら、ゆっくりとグラスを傾けた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい
りゅうじんまんさま
ファンタジー
かつて、『神界』と呼ばれる世界では『女神ハーティルティア』率いる『神族』と『邪神デスティウルス』が率いる『邪神』との間で、永きに渡る戦いが繰り広げられていた。
その永い時の中で『神気』を取り込んで力を増大させた『邪神デスティウルス』は『神界』全てを呑み込もうとした。
それを阻止する為に、『女神ハーティルティア』は配下の『神族』と共に自らの『存在』を犠牲にすることによって、全ての『邪神』を滅ぼして『神界』を新たな世界へと生まれ変わらせた。
それから数千年後、『女神』は新たな世界で『ハーティ』という名の侯爵令嬢として偶然転生を果たした。
生まれた時から『魔導』の才能が全く無かった『ハーティ』は、とある事件をきっかけに『女神』の記憶を取り戻し、人智を超えた力を手に入れることになる。
そして、自分と同じく『邪神』が復活している事を知った『ハーティ』は、諸悪の根源である『邪神デスティウルス』復活の阻止と『邪神』討伐の為に、冒険者として世界を巡る旅へと出発する。
世界中で新しい世界を創造した『女神ハーティルティア』が崇拝される中、普通の人間として平穏に暮らしたい『ハーティ』は、その力を隠しながら旅を続けていたが、行く先々で仲間を得ながら『邪神』を討伐していく『ハーティ』は、やがて世界中の人々に愛されながら『女神』として崇められていく。
果たして、『ハーティ』は自分の創造した世界を救って『普通の女の子』として平穏に暮らしていくことが出来るのか。
これは、一人の少女が『女神』の力を隠しながら世界を救う冒険の物語。
悪魔の生贄は花嫁になりました
佐倉ミズキ
ファンタジー
村の飢饉は山の悪魔を怒らせたから。
そんな噂が立った時には、村娘リユが生贄としてささげられることが決定していた。
どうせ両親もいない孤児だもの。当然よね。でも、こんなガリガリの子供を食べて、悪魔様は満足するのかしら。
ロープで縛られながら、リユはぼんやりとそんなことを考えていた。
どうせこのまま村で生きていても、いずれ餓死してしまう。それならば、最後に誰かの役に立ちたかった。
たとえそれが、悪魔であっても。
村人に担がれて、悪魔の住む山奥へ運ばれるリユ。
洞窟の入口で、たった一人取り残されたリユは悪魔の住処へと足を踏み入れた。
「今度の生贄はまだ子供じゃねぇか」
うんざりした声が聞こえ、顔を上げるとそこには件の悪魔が……。
「悪魔様?」
「そうだけど」
「……子供?」
リユの目の前に居たのは、15歳のリユよりも小さく幼い男の子がいた。
わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に
川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。
もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。
ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。
なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。
リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。
主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。
主な登場人物
ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。
トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。
メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。
カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。
アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。
イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。
パメラ……同。営業アシスタント。
レイチェル・ハリー……同。審査部次長。
エディ・ミケルソン……同。株式部COO。
ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。
ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。
トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。
アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。
マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。
マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。
グレン・スチュアート……マークの息子。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました
ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー!
初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。
※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。
※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。
※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m
みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!
沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました!
定番の転生しました、前世アラサー女子です。
前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。
・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで?
どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。
しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前?
ええーっ!
まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。
しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる!
家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。
えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動?
そんなの知らなーい!
みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす!
え?違う?
とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。
R15は保険です。
更新は不定期です。
「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。
2021/8/21 改めて投稿し直しました。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
盾の騎士は魔法に憧れる
めぐ
ファンタジー
魔法に憧れた少年は何故か魔法が使えなかった。
どんなに勉強しどんなに身体を鍛えどんなに魔物を倒し、年月が過ぎ去っても。
やがて勇者とその仲間と共に邪悪なる存在を滅し戦争すらも終わらせた青年は、唯一の力さえも手放してしまう。
男は結局魔法を使えないまま歳を重ね孫娘の成人の儀式の日を迎える。
突然に起こった魔物の襲撃によって手放したはずの力を再び手にした老人は、どれだけ願っても叶わなかった願いを孫娘が授かった未知なる神の加護の力によって叶える。
それは単なる始まりに過ぎなかった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる