お題小説

094 ： 名声と恋

１１

「へぇ、けっこう苦労したんだな。
それでも結婚したんだから、二人の愛は強かったってことだな！」

「年寄りをからかうもんじゃないわよ！
……でも、その通りね。
この人は、私にメロメロだったから…」

そう言われ、クロードの父親は黙って下を向いてしまった。



「じゃあ…もしも、クロードさんが金持ちでもなく親もいないような女を連れて来て『この人と結婚したい！』って言ったらどうする？」

「私は全然構わないわよ。
クロードが結婚してくれるのなら、どんな人でも。」

「へぇ…じゃあ、おやじさんはどうなんだい？」

「私も同じです。」

「そうか！！
そうなのか。そいつは良かった。
先生！良かったじゃないか。
あんたのご両親は、相手がどんな人でも反対はしないんだってさ！」

クロードは、リュックのその言葉にただ黙って微笑んでいた。



＊



「良かったら、またいつでも遊びに来て下さいね！
今度はぜひ私の作ったパイを食べていただきたいわ！」

「ありがとう！
また、来させてもらうよ！」

クロードの家でたらふくご馳走になり夜も更けた頃、私達は馬車に乗って町に戻った。



「先生、今日は本当に楽しかったよ。
どうもありがとうな！」

「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。
ぜひ、またいつかご一緒させて下さいね！」



私達は、裏山のふもとで馬車を降り、クロワとクロードは診療所へ戻って行った。



「マルタン、あの様子じゃクロワさんのことは心配いらないな。」

「そのようだな。
しかし、今日は驚いたぞ。
突然、家に行きたいなんて言い出すんだから。」

「あの先生の実家がどんな家なのか、どんな親なのか知りたいじゃないか。」

「君は、まるでクロワさんの保護者みたいだな。」

「そりゃあそうさ。
クロワさんを委ねるには、相手のことをしっかり見極めないと安心して置いて行けないからな。」

リュックは本当にクロワのことを案じている。
 彼は、心底、人の善い男なのだと改めて思った。



「で、彼らなら合格点だというわけか…」

「そういうことだ。
マルタンも、そういう相手が出来たらすぐに俺に言うんだぞ！」

「今の所はなさそうだな。
ここには男と母親みたいな人しかいないからな。」

「そりゃ、もっともだ！」

私達はそんな他愛のない話で笑いながら宿舎に戻った。