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ルカ(聖夜月ルカ)

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090 : 昔日の涙

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「あんたがいたから、ジャクリーヌは頑張れたんだぜ…」

「ば…馬鹿なことを言うな!」

「……読んでないのか?」

リュックは、後ろの方のページをめくりながら、目的のページを開き私に見せた。



そのページには、「マルタンさんが会いに来てくれる」
…弱々しい文字でそう書いてあったのだ。
日記には、パスカルが、知り合いに頼んで私の居場所をみつけ手紙を届けてくれたから、私は今こちらに向かっているという風に書かれていた。



「きっと、パスカルさんがジャクリーヌを元気付けようと嘘を吐いたんだな…
でも、この日付を見てみろよ。
俺達が、陽炎の化石を探し出した頃じゃないか。
ただの偶然とは思えないな…」

それはただ、その頃から彼女の病状が悪化したと言う事に過ぎない…

日記は、それからも日一日と書いてある内容は少なくなり、文字に力がなくなっていった。
自分がもう長くないということを感じているような記述が所々に見受けられる。
それでも、彼女は私が来ることを信じ、ずっと楽しみにしていたようだ。



「ほら、ここを見てみろよ。
マルタンさんが来るまでに少しでも元気にならなくちゃって…
こっちには、お母さんに髪を切ってもらったとか…
ジャクリーヌは、あんたに会うことを支えに生きてたんだぜ…
あんたの存在があったから…彼女は酷い痛みにも耐えられたんだ!」

私は声をあげて泣いた。



違う!!
私は、彼女の支えに等なってはいない。
ジャクリーヌの想いを裏切って、別の子供に命を与えてしまっただけではないか。



「リュック…私は…そんな彼女を裏切った…」

「それは違う。
惨い言い方かもしれないが…これが彼女の運命だったんだ。
逃れきれない運命だったんだ。
ユベールに出会った時点で、それはもう決まってたことなんだ、きっと…」

「そんなことはない…
あの時、ユベールにあの石を渡さなければ、ジャクリーヌは間違いなく助かった。」

「あぁ、そうだ!
そして、ユベールは間違いなく死んだだろうな。
そして、あんたはユベールを殺したのは自分だと苦しむんだ、今みたいにな!」

リュックのその言葉が、私の胸に深く突き刺さった。



「良いか、マルタン…ジャクリーヌの運命と同じように、俺達がユベールに出会うのも運命だったんだ。
あんたが不治の病の子供を助けたのもそれも全部運命なんだ。」

「不治の……病の…」

 心の中がわけもなくざわめいた。



「……マルタン……どうしたんだ?
マルタン!!
マルタン!!!」



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