お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
546 / 641
090 : 昔日の涙

10

しおりを挟む
「ここでパスカルさん達が…」

私達は、両手を組んで三人の冥福を祈った。

彼らの悲しみや無念さを考えると、涙が止まらなかった。
ベッドサイドの小さなテーブルの上には、私が詰めたあの鳴き砂の小瓶が置いてあった。
パスカル夫妻は、それを見ながら故郷のことを思い出していたのだろうか…



「マルタン…これ…あの時の鳴き砂だよな。」

言葉を発することが出来ず、私はリュックに黙って頷いた。



「そうか…良かったな…
うん、良かった…
………なんだろう、これ?」

鳴き砂の瓶を持ち上げたリュックが、瓶の下に紙切れのようなものを見つけた。

その紙切れを広げて読んだリュックの瞳から突然大粒の涙があふれ、そしてこぼれ落ちる。

リュックが私に手渡した紙切れには思いがけないことが書いてあった。



「つい今しがた、ジャクリーヌが旅立ちました。
あの子が最後の最後まで頑張り抜いたことを、私達は誇りに思います。
私達の決断は間違った行為かもしれませんが、彼女の病気を知らされた時から私達はこうすることを決めていました。
 彼女が旅立つ時は、一人では行かせないと。
 離れ離れになっていた私達が、やっと一緒になれたのです。
これからはもう絶対に離れないと決めていたのです。
お世話になった皆様、本当にありがとうございました。
私達は今とても幸せです。」



紙切れを持つ手が震えた。
文面が膨らみ歪んで見えた。
心の中に様々な想いが溢れ、波立ち渦を巻いていた。



「マルタンさん、私にも見せて下さい!」

クロワが私の手から紙切れを取り去った。



思いがけない真実に、私は心の傷をさらにえぐられたような気がした。
彼らは、娘の病を苦にして死んだのではなかった。
ジャクリーヌは、痛みや苦しみから逃れるために死んだのではなかった。
最後の最後まで闘い抜き、そして力尽きたのだ。
彼女は病による激しい痛みや苦しみをあまんじて受け入れてもなお、生きたかったのだ。

自分の罪深さに、押しつぶされそうになった。



あの時、ユベールに出会わなければ…
陽炎の化石のことを知らなければ…
ジャクリーヌの病気のことに気付かなければ…
陽炎の化石がみつからなければ…

そんなどうにもならないことを止めど無く考えてしまった。




私の罪は、どうあがいても償いきれるものではない…
では、一体どうすれば…


私はどうすれば良いんだ……!?



しおりを挟む

処理中です...