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ルカ(聖夜月ルカ)

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090 : 昔日の涙

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「じゃあ、気を付けてね~!
良かったら、また帰りも寄っておくれよ~!」

「あぁ、また来るよ!
どうもありがとうな~!」

偶然の出会いから、私達は酒場で時間を潰す事が出来た。
そのおかげで、私達は空腹を抱えることもなければ、店の長椅子をベッドにしつらえて仮眠を採る事も出来た。



「あと少しだと思うと、なんだか、どきどきするな!
それにしても、このあたりは良い所だなぁ…
空気がうまいぜ。」

「本当にそうね。
ちょっと不便かもしれないけど、静かで良い所だわ。」

ジャクリーヌの住む町は、豊かな自然に囲まれたとても美しい所だった。



予想していた通り、その町へは昼前に着くことが出来た。



「この時間だと、皆で昼食が食べれるな。」

「楽しい昼食になりそうね!」

「クロワさん、陽炎の石はもう準備は出来てるんですか?」

「ええ、もう潰して粉にしてあります。
着いたらすぐにジャクリーヌにのませられます。」

クロワの顔は、明るく輝いていた。
その薬さえ飲めば、ジャクリーヌもユベールのようにすぐに元気になることだろう。
そうなればパスカル夫妻はどれほど喜ぶことだろう…
そんな想像をすると、私の顔にも思わず笑みがこぼれた。



「パスカルさんの家はどこなんだろうな…
あ、あの人に聞いてみようぜ!」

リュックは向こうから歩いて来た中年の女性に声をかけた。



「このあたりに、パスカルさんの家はないかな?
わりと最近越してきたはずなんだけど…」

「パスカルさん…
あんた達、パスカルさんの知り合いなのかい?」

「そうなんだ。
旅行がてら、ちょっと遊びに来てみたんだ。」

「そうだったのかい…
そりゃあ、パスカルさん達も喜ぶよ。
案内するよ。ついておいで…」



親切なことに、女性は私達をパスカルの家まで案内してくれた。
人通りは少ないが、ちょっとした商店はあった。
至る所に花や木々に溢れ、高い空を時折、可愛らしい泣き声の小鳥が飛び交っている。
自然と一体になった静かで穏やかな町だった。
女性は、私達の方を振り向きもせず、数歩先を黙々と歩いて行く。



「パスカルさんはずいぶんとはずれに住んでるんだな。」

「ジャクリーヌの身体のことを考えてのことじゃないかしら?」

「そうかもしれないな。
出来るだけ、静かな場所を選んだのもしれないな。」



そんな話をしていると、拓けた場所の前でおもむろに女性が立ち止まった。

 
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