お題小説

084 ： 収穫祭

１

「なんだか、慌しいな！」

町に着くと、リュックの言葉通り、人々がなにやらせわしなく走り回っていた。



「ここにも、また興行でも来るのかしら？」

「そうかもしれませんね。」

「あ、心配しないでくれよ。
もし、そうでも今度は見て行きたいなんて言わないからな！」

宿屋に着いて、その理由がわかった。
明日からこの町では収穫祭が行われるということだった。



「良かったわね、リュック。
興行じゃなくて！
それとも、ちょっと残念かしら？」

「意地悪だな、クロワさんは。
しかし、祭りっていうのはいろんな町にあるもんだな。」

「そうだな…」

その時、私の頭の中にはあのソレイユの気高く美しい姿が呼び起こされていた。
長い間、心の奥底に封じこめていたあの女性だ。
そういえば、彼女との出会いも、祭りだったのだ。
旅をするうちに偶然立ち寄った町で行われていた夏至祭…
特に、興味さえ持っていなかったその祭りで、ソレイユを見た時のあの衝撃がまざまざと脳裏に甦って来た。

その彼女ももうこの世にはいない…



「……どうかしたのか、マルタン？」

「いや…なんでもない…」



いつどこでどんな人と出会い、それがどう言う結果に繋がるのかは誰にもわからない…
今こうして旅を続けているクロワやリュックとの出会いも、元はといえばただの偶然からだった。
彼らと旅をしようとして出会ったわけではなく、そして、彼らとの出会いが私をこんな旅に連れ出す結果になることも、その時には予想もしていないことだった。

収穫祭という言葉から、私は思いがけず感傷的な気持ちを感じてしまった。



「じゃあ、夕食でも食べに行くか。」

「そうだな、そうしよう。」

私達は、町の小さなレストランを訪れた。